どうも。
管理人のKnee-studyです。
今回は、人工膝関節についてです。
人工膝関節は、インプラントの改良により耐用年数は伸びてきており、一度手術をすれば、半永久的な膝が実現されるようになってきています。
このことから、人工膝関節の適応の幅がグッと広がってきています。
以前は、寿命を考慮し、60歳~70歳代以降の適応がほとんどでしたが、近年では40歳代からでも人工膝関節を検討するケースが増えてきています。
今回は、そんな人工膝関節の適応年齢について考えていきたいと思います。
1.人工膝関節のインプラントの耐用年数の変化
現在、TKAのインプラント素材の耐用性の向上により、1度手術をすれば半永久的な膝が実現され、米国では50代、60代の若年者の手術も増えてきています。
我が国でも55歳以下の人工膝関節施行例に対し研究を行っていますが、良好な成績を残しているという報告もあります。
15年~20年が良く言われている耐用年数である
医療現場では、大体患者さんに説明する際は、「15年~20年程度で再置換をしなければならなくなる」と言っています。
これはどの年齢層の方にも共通して説明している感じですね。
寿命を考えたTKAの適応
TKAのインプラントの耐用年数と人間の寿命を考慮したTKAの適応が一昔前までは当たり前でした。
●人間の寿命は大体80歳代後半
●TKAのインプラントの耐用年数15~20年程度
=TKAの適応は60歳代後半から70歳代
このような方程式がありました。
40歳代や50歳代と若年者がTKAを行うリスク
若年で活動性が高い場合、当然ですが高齢者に比べインプラントの摩耗や弛みを生じやすくなり、本来の耐用年数を待たずに再手術が必要となる可能性が高くなります。
2.近年では40歳代や50歳代の変形性膝関節症患者に対しTKAを行うケースは増えてきている
年々進むTKAのインプラントの改良により、TKA自体の適応年数は一昔前とは大きく様変わりして、若年者にも広がってきています。
この背景には、上記で説明したTKAのインプラントの改良が大きく影響してきています。
基本的には金属部分の問題は大きく影響がないものの、間に存在するインサートに限界が来ることで再置換を行うケースが懸念されてきました。
ここに関して、改良が重ねられ耐用年数を大きく伸ばす可能性を実現しています。
人工膝関節の耐用年数に大きく影響を及ぼす「酸化」への対応が大きな課題であった
TKAのインプラントの改良により、大きな問題であった「インサートのポリエチレンの酸化」が解消されつつあります。
酸化を抑制するためにビタミンEを浸漬・浸透させることにより、持続的な耐酸化機能を実現することになり、人工関節のインサート部のポリエチレン耐久性に起こり得る”摩耗”と”破損”を通常よりも抑制する技術として期待されています。
また、ポリエチレンにγ(ガンマ)線を照射して、分子結合が強固で摩耗に強いポリエチレンを生成する技術が取り入れられるようになっています。
この技術により「摩耗の低減」は実現でき、ビタミンEの浸漬・浸透の技術と合わせてよりTKAの耐用年数の長期化に寄与することとなっています。
※2012年と少し古い報告ですが、TKAインプラント技術革新を理解できる内容になっています。
このように、技術の進歩があり、TKAそのものの耐久性は向上していることが考えられ、従来、一般的に15年~20年と言われてきた人工膝関節のさらなる長寿命化が期待されているわけです。
若年者のTKAの治療成績についての研究
この文献は有料記事であり、一般には読むことはできませんが、結論だけは確認可能です。
詳細は確認できないため、説得力は格段に低下しますが、「こういった報告もありますよ」といったスタンスで理解していただけると幸いです。
以下、上記文献の内容を抜粋しています。
背景:若年者変形性膝関節症(OA膝)に対する人工膝関節全置換術(TKA)の臨床成績を検討,調査した.
対象と方法:
55歳以下の若年者のOA膝に行った初回TKA 75人85膝を対象とし、臨床所見およびX線学的計測を調査した。
再置換例の原因、合併症も調査、検討した。
結果:
臨床症状は有意に改善した。
再置換術に至ったものは7例であり、再置換までの期間は、平均13年9カ月であった。
まとめ:
若年者OA膝に対するTKAの臨床成績は概ね良好であった。
この文献では、55歳以下のTKA施行例に対して研究を行っています。
活動性の高い若年者であっても、再置換までの期間は平均13年以上と比較的長期的に経過を辿ることが出来ていることがわかります。
また、臨床症状も有意に改善しているとあり、術後の経過が良好であることが予想されます。
こういったTKAのインプラントの改良に加え、それを後押しする研究結果も報告された背景もあり、TKAの適応の幅は広がってきているものと思われます。
3.若年者でTKAを考える前にやるべき選択肢
ここまでは、40歳代や50歳代と比較的若年者のTKAを推奨する内容をお送りしてきましたが、一旦立ち止まって考える内容も紹介します。
TKAとなると、”人工膝関節全置換術”といって、膝関節全体を入れ替える(置換)手術を指します。
つまり、「膝全体が悪いと判断し、手術に臨む」ということになるわけですね。
ここで考えてほしいのが、”若年者ほど正常組織は多く残存している可能性がある”ということです。
高齢になるほど、慢性で長年の積み重ねにより徐々に関節の破壊が生じて手術に至るわけですが、若年者であればあるほど、積み重ねの期間は短いわけですから損傷組織は限定されるはずです。
つまり、全てを入れ替える必要はない可能性もあると考えれるわけですね。
そういった可能性の面を考慮したTKA以外の治療法も以下に報告します。
HTO(High Tibial Osteotomy):高位脛骨骨切り術
HTOとは、膝の関節面に対しては処置せずに、脛骨の骨切りを行い、膝関節のアライメントを修正する手術になります。
このHTOですが、一つの大きなポイントとして、「膝外側の軟骨の状態が良いこと」が前提として挙げられます。
その他、膝内側の関節の状態もある程度維持されていないと適応にはなりません。
※HTOでは膝関節に対して行う手術ではなく、「関節の集中した応力を変えるための手術になる」わけです。
また、HTOは脛骨側の矯正を行う手術であり、大腿骨側の変形への対応など困難なケースがあるのが現状です。
ただし、若年者の変形性膝関節症や関節面の異常が軽度の場合は、適応となり早期のスポーツ復帰などがメリットとして挙げられています。
近年では、脛骨だけの矯正では課題が多く残るとし、大腿骨側の矯正も図る”膝周囲骨切り術:AKO(Around the Knee Osteotomy)”という脛骨に加え、大腿骨に対しても骨切りを加え、バランスを整える手術技術も散見されています。
HTOのメリット
HTOのメリットは、”人工のもの”ではなく、「自分の膝を残したい」・「まだまだ旅行やスポーツを楽しみたい」という活動的な意欲を持っている方に適した手術法となります。
TKAと違う点として最も大きいのは「正座が出来る」ことにあると思います。
HTOでは「関節面に対するアプローチ」ではなく、「骨に対するアプローチ」であるため、”過度な関節運動を伴う正座”にも適応があるということになります。
特に、30代~60代といった若年者で、常日頃から活動的に生活されている方には適応と言えます。
このように、HTOの場合、関節の構成体に対しては大きな変化を起こさずに、関節にかかる応力を分散させる効果があるということになります。
HTOのデメリット
HTOの最大のデメリットとして、「術後の痛みが取れるまでに2〜3カ月かかる」ということが挙げられます。
HTOでは、脛骨部分に骨切りを行い、その間に人工骨を挿入することから、自身の骨として機能するまでにある程度時間がかかるし、その間はやや不安定さの残る状態が続くことが考えられるわけです。
このように、「骨癒合までに時間を要す」ということが最大のデメリットになるということです。
4.まとめ
今回は、「40歳代や50歳代の変形性膝関節症患者にもTKAの適応が広がっている」という内容で記事をまとめていきました。
実際に、TKAのインプラントの改良により、若年者への適応も広がってきているのは実情です。
ただし、活動性を考慮した場合、どうしてもTKAでは制限がかかる場合が生じます。
※正座が出来ないなど深屈曲に関連する動作の制限が挙げられる
こういった問題を解消する案として、HTO(高位脛骨骨切り術)という関節自体は温存する手術も一つの手段として挙げられることを説明しました。
HTOの場合、正座を含めた深屈曲域の活動が可能になることから、活動範囲の拡大は得られることが予想されます。
ただし、メリットだけでなく、当然TKAと比較してデメリットもあることも考慮しなければなりません。
このHTOですが、近年ではAKOといって、脛骨だけでなく、大腿骨に対しても矯正を行う手術が主流になってきているようで、今後は若年者に対してはTKAよりもAKO(HTO)の適応が増えてくる可能性もあるということになりますね。
以上で今回の内容は終了になります。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!
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