どうも。
管理人のKnee-syudyです。
前回は変形性膝関節症やTKA術後の歩行時に生じるstiff knee gait(SKG)の原因についてまとめていきました。
前回記事はこちらです。
今回は、その内容を踏まえて実際のSKGに対するアプローチ方法の一例について紹介していきます。
それではよろしくお願いします。
1.TKA術後に生じるstiff knee gait(SKG)に対するアプローチ方法
図:stiff knee gaitについて
TKA術後の膝のこわばり感については前回記事でも紹介したように、術後の満足度の低下に繋がってきます。
そこに対してアプローチし改善させることが出来たら理学療法士としてこの上ない喜びになりますね。
以下にアプローチの一例とその裏付けとなる文献も紹介します。
①内側広筋などの広筋群のトレーニング
TKA術後の歩行時の膝のこわばり感であるstiff knee gaitは、外側広筋と大腿二頭筋の過剰な同時収縮が影響するとされています。
この背景には、TKA術後は手術侵襲や神経原性の反射抑制、関節内腫脹により生じる内側広筋(大腿広筋群)の筋出力低下が関与しているといわれています。
引用元:Mizner RL, Petterson SC, Stevens JE, et al.: Early quadriceps strength loss after total knee arthroplasty. The contributions of muscle atrophy and failure of voluntary muscle activation. J Bone Joint Surg Am, 2005, 87: 1047-1053.
そのため、TKA術後は大腿四頭筋の筋力低下により、膝関節自体の不安定性が生じます。
これに対し主動作筋と拮抗筋の同時収縮により不安定な関節を安定させる代償機構が働いていることが予想されます。
同時収縮により関節自体の安定性は高まるものの、動的な関節運動を阻害する結果となり、これが歩行時の膝のこわばり感(stiff knee gait)に繋がってくる訳です。
TKA 術後早期のSKGには、他動的な屈曲角度は関連せず、歩行中の前遊脚期中の過剰な大腿直筋の筋活動および外側広筋と大腿二頭筋の過剰な同時活動が影響する可能性が示された。
したがって、SKGの治療には、他動的な関節可動域練習だけではなく、前遊脚期の大腿直筋の収縮や外側広筋と大腿二頭筋の同時活動を軽減することが重要であると思われる。
引用文献:齊木理友ら 人工膝関節置換術術後早期における歩行時の遊脚期膝関節屈曲角度と前遊脚期膝関節周囲筋活動との関係 理学療法科学 34(3): 277–282, 2019
このことから、内側広筋に対するトレーニングが重要になってきます。
内側広筋を賦活させることで膝関節自体の安定性を高めていくことで、副次的に二関節筋である大腿直筋やハムストリングスの過剰な筋活動も抑制されることが予想されます。
内側広筋のトレーニングで代表的なものはパテラセッティングが挙げられます。
ただし、思っているよりも内側広筋に収縮が入っていないことがしばしば見受けられるため、しっかり確認しながら行っていく必要がありますね。
図:パテラセッティング
図:パテラセッティング 変法
②ハムストリングスのトレーニング
前述した通り、stiff knee gaitは大腿直筋の過活動が影響していることが予想されています。
相反する膝屈曲筋であるハムストリングスのトレーニングは大腿直筋の過活動抑制に効果がある可能性があり、結果的に生じる膝関節屈伸筋の同時収縮の改善に繋がることが期待されます。
Goldbergらは、stiff knee gaitにおける立脚周期から前遊脚期の膝屈曲動作には膝屈曲筋力が影響することを報告しており、歩行時の膝同時収縮には膝屈曲筋力の関与が重要である可能性が示唆された。TKA後における膝関節屈筋の強化は、CIを減少させるとともに歩行能力を改善させる可能性が推察される。
※CI:co-contraction index(拮抗筋同士の収縮を評価するスケール)
角瀬邦晃ら 人工膝関節置換術後における歩行時の膝周囲筋の同時収縮と機能的因子の関連についてより引用
TKA術後は膝の屈曲時痛を認めることが多いため、ハムストリングスのトレーニングを行うための膝屈曲運動が困難になることがあります。
端座位での膝屈曲に対する抵抗運動を行うか、腹臥位での膝屈曲運動を行うか、求心性or遠心性トレーニングにするのか、等尺性でいくのかなど様々な方法を試して
反応のいいトレーニング方法を探っていきます。
あくまで膝の痛みがない状況下で行うことが重要になると思われます。
図:ハムストリングスのトレーニングの一例
③知覚機能に対するアプローチ
膝OA患者においては、術前や術後において膝の関節位置覚や運動イメージが低下するなどの知覚機能の低下が生じることが明らかにされています。
またTKA後患者においては、運動イメージの低下によって、術後に下肢アライメントが改善されているにもかかわらず、術前の歩容が残存するとの報告もあります。
TKA後に神経障害性疼痛を有した対象者に対して、治療の一つとして硬度を識別させる介入を行った結果、疼痛の減少に硬度識別課題が寄与したという報告があります。
また硬度識別課題を行うことによって、疼痛以外への知覚に対する注意が喚起され、無意識的に生じている防御性収縮や、筋スパズムが緩和する可能性も指摘されています。
このことから、TKA術後のstiff knee gaitに対して硬度識別課題などの感覚機能に対する介入を行うことで効果が得られる可能性が期待できます。
これだとセルフトレーニングにも直結してきますし、自己での疼痛コントロールが出来る可能性も出てきます。
④前足部荷重の促し
stiff knee gaitは立脚終期から遊脚期にかけての膝関節のこわばり感が現象として認められます。
立脚中期から終期にかけて前足部荷重となり、最終的につま先が床から離れ遊脚期に切り替わります。
TKA術後においては、この立脚終期における円滑な前足部荷重が困難となり、遊脚初期で努力的に屈曲運動を行っていることが予想されます。
つまり、前足部荷重を直接的に訓練を行っていくことで、歩行時のこわばり感が解消する可能性が出てくるわけです。
ただし、膝の疼痛によって前足部荷重が困難になっている場合は、いくら直接的な訓練を行っても、効果は得られないこともあり、しっかりとした評価が必要になります。
訓練としては、カーフレイズやつま先立ちでの歩行訓練などを行い、そこから実際の立脚終期での蹴りだしの訓練(前足部荷重)を反復して行っていきます。
もし、膝のこわばり感がなかなか取れずに、訓練が進まない場合は動作訓練の前に「知覚機能に対するアプローチ(硬度識別課題)」を行うなど組み合わせて行うと、効果が得られやすくなります。
2.まとめ
今回はTKA術後の歩行時に生じるstiff knee gait(SKG)に対するアプローチについて紹介していきました。
歩行時のSKGになっていることはわかっても実際にどうしたら改善するのか不明なところがありますよね…。
実際に文献でもSKGが起こっている原理や対処法など散見されますが、患者さんに対して上手く適応するかどうかはやってみなければわかりません。
私自身も今回紹介した内容を臨床に取り入れて行っていますが、やはり効果が出るケースとそうでないケースが存在し、もっと問題点の細分化をしていかなければならないと感じています…。
それでも「時間の経過で良くなると思いますよ」と言って何もできないもどかしさを感じるよりは試行錯誤を繰り返して改善を図っていくことが大事であると思います。
この記事がTKA術後のSKGに難渋しているセラピストに読んで頂ければと思います。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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