TKA術後の痛みの遷延化は「痛みの破局的思考」が影響している

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TKA術後の理学療法
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どうも。

管理人のKnee-studyです。

 

近年、運動器疾患による痛みに関する心理的側面として、「痛みの破局的思考」が注目されています。

この痛みの破局的思考とは、”痛みに対してネガティブに捉えてしまうこと”をいい、

破局的思考が強い人ほど、慢性疼痛になりやすいとも言われています。

 

かく言う、人工膝関節置換術後のケースでも、術前の痛みの破局的思考が術後の痛みの遷延化に影響し、手術成績を低下させる可能性があるとも示唆されています。

実際に、TKA術後に慢性疼痛に移行する割合は一定数存在し、約10~20%程度と言われております。

 

人工膝関節の手術自体は満足度が高いことで知られています。

※術後の成績がよく、術前よりもADLが向上するため

この満足度は、術前にあった膝の痛みは歩行障害が大きく改善されるが故の結果であり、

術後の痛みが長く続くなどの問題が生じた場合、術後の満足度は大きく低下することが容易に考えられます。

 

この術前の痛みをネガティブに捉えすぎていると、術後の痛みが思ったよりも軽減せず、炎症症状など落ち着いても痛みが遷延するリスクが高まります。

 

今回はこの人工膝関節置換術後だけに留まらず、整形外科的手術後の術後痛に影響するといわれている「痛みの破局的思考」について考えていきたいと思います。

 

 

 

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1.TKA術後の痛みに影響する因子

まずはTKA術後の痛みの遷延化に影響する因子についてです。

大きく分けて、「身体的機能の問題」と「精神的要因が関わる問題」の2つになります。

 

以下の項目は、TKA術後に限らず、「整形外科的手術後の術後痛に影響する要因」として、挙げられている項目を抜粋しています。

 

●年齢

●body mass index(BMI)

●大腿四頭筋の筋力

●膝関節可動域

●不安感

●うつ症状

●恐怖感

●痛みに対する捉え方(痛みの破局的思考)

 

このように、身体機能の問題だけで、精神的な要因も大きく関わっていることが研究で明らかになっています。

 

今回はこの術後痛の要因として最後に挙げられている、「痛みの破局的思考」についてピックアップしていきます。

 

 

2.「痛みの破局的思考」とは一体何なのか?それを評価する方法は?

ここからは、今回のメインとなる部分になります。

痛みの破局的思考について説明していきます。

 

痛みの破局的思考とは?

痛みの破局的思考とは、Ellisが提唱した概念であり、痛みの経験をネガティブに捉える傾向のことを言います。

 

簡単にいうと、「痛みの事が頭から離れなくなってしまっている」・「痛みがあるから何もできないと思っている」など、”痛みに固執してしまっている状態”のことを言います。

 

痛みのことが先行してしまって、何をやるにも「痛いから・・・」となってしまっている状態を言います。

 

痛みの破局的思考 = 恐怖回避思考(Fear-avoidance beliefs)

痛みの破局的思考は痛みの強さや精神的なストレス状態と関連することが明らかにされています。

この精神的なストレスが強くなると、それを避けるために”恐怖回避思考(Fear-avoidance beliefs)”と呼ばれる反応が出現します。

 

恐怖回避思考とは、

「痛みの経験による悲観的な解釈や不安、恐れなどの負の情動が、過剰な警戒心と痛みの回避行動、廃用および鬱傾向を招き、さらなる痛みを誘発する」

という”負のループ”のことを言います。

※Googleで「恐怖回避思考」と調べると、わかりやすい画像がすぐに出てきます

 

実際の恐怖回避思考に関する図は以下の通りです。

 

これはTKA術後に限らず、どの病態でも痛みの破局的思考が形成されると、恐怖回避思考が構築され慢性的な痛みへと繋がってしまうことになりかねないということですね。

 

痛みの破局的思考を現す3つの側面(反芻・無力感・拡大視)

破局的思考の3つの要素は独立した特徴を有しています。

反芻

・痛みのことを常に考えてしまう状態

・痛みについて繰り返し考え、痛みに固執している状態

 

無力感

・痛みに対する対処が困難であると考えてしまう状態

・痛みに圧倒され、痛みに対して無力感を生じている状態

 

拡大視

・自身が置かれている痛みの状況を過大に考えてしまう状態

・痛みから生じる語化への悪影響など痛みに対する脅威性を感じている状態

 

 

上記の3つの側面が痛みの破局的思考を作り出しています。

 

 

痛みの破局的思考を評価するスケール⇒PCS(Pain-Catastrophizing Scale)

痛みの破局的思考を評価するものとして代表的なのが、”PCS(Pain-Catastrophizing Scale)”になります。

 

PCSは患者立脚型の評価スケールの一つであり、患者自身が回答する質問指標票になります。

 

現在、日本語版のPCSも開発されており、高い信頼性と妥当性を有する評価尺度であるとことが明らかにされています。

 

質問項目は全13項目であり、下位項目(反芻5項目・無力感5項目・拡大視3項目)に分けられ、それぞれ0点(全くあてはまらない)・1点(あまりあてはまらない)・2点(どちらともいえない)・3点(少しあてはまる)・4点(非常にあてはまる)の5段階で回答してもらいます。

 

13項目の合計点数はMax52点であり、基本的にはこの点数が高くなればなるど破局的思考が強い状態と判断されます。

また、カットオフ値は30点とされており、30点以上の場合は破局的思考が強いと判断されます。

 

PCSマニュアルが英文ですが存在し、その中でPCSのカットオフ値は30点とされています。

PCSのマニュアルについては以下から飛んで確認することが出来ます。英文読解ができる方はご覧ください。

PCSのマニュアル

 

上記内容に合わせて、下位項目である「反芻・無力感・拡大視」の3つに分類して、評価対象者がどの項目に当てはまるのかも同時にチェックしていきます。

 

以上がPCSの評価方法になります。

 

 

3.実際にPCSを使用したTKA術後の研究について

ここでは、痛みの破局的思考がTKA術後および整形外科的疾患に対してどのように影響しているかについて研究した内容の一部分を抜粋しています。

 

痛みの破局的思考がいかに影響しているか、痛みの破局的思考が影響している場合はどのように対処すればいいのかなどについてのヒントになる内容をまとめています。

 

・TKA患者において、術前の痛みの破局的思考が術後の痛みの遷延化に影響し、手術成績を低下させる可能性が示唆されている。

このことから術前に痛みの破局的思考を評価しておく必要性は比較的高いのではないかと思います。

事前に痛みの破局的思考が強いと分かっていれば、術後の介入方法や対応方法は変わってきますよね。

 

 

・KendellらはTKA術後リハビリテーションの短期成績にcatastrophizingが関与していると報告している。

痛みの破局的思考がTKA術後の短期成績に影響するとなると、術後の機能改善が大幅に遅れることが予想されます。

 

術前腰部脊柱管狭窄症患者の痛みの破局的思考は術後1年のODI(Oswestry Disability Index)や痛みの強度には影響しないが、術後3,6か月のODIと痛みの強度に影響するため、手術の効果を遅らせる因子になる可能性がある。

↑上の報告と少し近い内容ですが・・・これは腰部脊柱管狭窄症を対象にした研究の報告です。

※ODI(Oswestry Disability Index)とは、世界で最も広く使用されてきた患者立脚型の腰痛疾患に対する疾患特異的評価法のひとつ

 

TKAでも同様の反応が出る場合は、痛みの破局的思考が強い患者においては入院中に痛みが解決する可能性は低いことが予想されます。

この場合は、退院後に痛みからの活動性低下をきたさないよう、退院後の生活指導や継続したリハビリの指導が望まれるのではないかと思います。

 

 

・Forsytheらは術前にPCSのうち反芻が強い症例は術後12か月および24か月の疼痛の予測因子になったと報告している。

PCSの中でも、特に反芻の結果がTKA術後に影響いているとも言われていることがこの結果からもわかります。

術前から反芻の値が大きい場合は、術後ある一定期間まで痛みが遷延することが予想されるわけですね。

 

 

・Dammeらは痛みに対する恐れとcatastrophizingが強い状態で痛みから注意をそらすような課題を行うと、より痛みを増悪させる可能性があると報告している。

少しわかりにくい表現ですが、痛みの破局的思考が強いケースに遭遇した場合は、痛みについてあまりに気にせずに通常通りのリハビリを進めていると、痛みが改善するどころかかえって悪化させてしまう可能性があるという解釈になります。

 

 

・Sullivanらは、反芻が強い症例に対しては、痛みに対し過度な注意を向け、不安を強化しないような教育的な視点が重要であるとしている。

上記の報告と関連しますが、痛みの破局的思考が強い場合は、痛みを無視するのではなく、しっかり痛みに対して向き合い、「不安の軽減」に努めることが重要とされています。

具体的には、明確な説明や指導などを行い、痛みが増悪しない動作やリスクの説明を行っていくことが挙げられます。

術前に破局的思考が強いと分かっていれば、患者教育に大きく時間を割くなどある程度の個別的な介入が望まれます。

 

4.まとめ

今回は、TKA術後の痛みの遷延化は「痛みの破局的思考」が影響しているということで、その裏付けとなる内容を記事にしていきました。

 

慢性疼痛については近年研究が進められ、「痛み」に対する医療者の考え方も変わってきています。

研究のベースも”機能改善や客観的指標”に着目した内容から、”患者自身がどのように感じているか”といった患者立脚型の質問票が多く普及し、患者を主体とした研究が増えてきています。

 

TKAにおいても、年々手術技術や機器の改良が進められ、手術における差は減ってきています。

そのため、より満足度であったり術後の機能改善を得るには患者自身がどのように感じているか?が大事になってくるようになってきたのではないかと思われます。

 

●TKA術後患者の約20%が不満足と答えている

●TKA術後患者の約10~20%が慢性疼痛に移行している

 

このように、大半は術後良好な結果が得られていますが、上記のように一定数は術後に問題を抱える結果になっているわけです。

 

ここの課題に対して、今回紹介した「痛みの破局的思考」が影響しているものをされ、近年多くの研究で普及してきています。

 

痛みの破局的思考自体、評価をすることで患者自身がどのような心理状態に陥っているのか、比較的簡単にわかるので特に術前からリハビリ介入を行う際は、一つの評価ツールとして実践していってみてはいかがでしょうか?

 

それでは本日はこの辺で。

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!

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