どうも。
管理人のKnee-studyです。
前回は、TKA術後の痛みの遷延化について考えていきました。
TKA術後の疼痛は、術前の痛みの程度や心理的側面が影響するとされています。
そのなかで、「痛みの破局的思考」という”痛みをネガティブに捉える思考”がTKA術後の痛みの遷延化に影響すると説明していきました。
このように、前回記事では、「痛みの破局的思考」についてフォーカスしてまとめていきました。
「痛み」を考える上で、痛みの破局的思考以外にも、
「中枢性感作」という概念も近年では変形性膝関節症などの疼痛に影響するという報告が増えてきています。
今回は、その「中枢性感作」について記事を書いていきたいと思います。
1.中枢性感作について
中枢性感作が関与する代表的な疾患は、線維筋痛症になりますが、近年では変形性膝関節症などの痛みにも関与していると報告されています。
中枢性感作とは?
中枢性感作に関する大まかな定義は以下の通りです。
【中枢性感作の定義】
中枢性感作は、中枢神経系における痛覚過敏を誘発する神経信号の拡大
つまり、末梢からの感覚入力は、伝導路を伝わって大脳まで伝導されますが、その伝導路の中枢神経系において刺激が増幅され、本来よりも増幅されて伝導されることを中枢性感作と言います。
超簡単に解釈すると、”本来痛まなくてもいいレベルの痛みを感じやすくなってしまうことになる”ってことですね。
中枢性感作とは、侵害刺激が繰り返されることにより疼痛が次第に増強される「反応性の増大」を指し、疼痛を本来よりも過剰に、広範に感じる状態として説明される。
これは中枢神経系の可塑的な変化や機能障害が背景にあり、疼痛の難治化、遷延化の一因となる。
Malfait A-M,et al:Towards a mechanism-based approach to pain management in osteoarthritis.Nat Rev Rheumatol 2013;9:654-664より引用
このことから、中枢性感作が生じると、「痛みを感じやすくなり、痛みの軽減が得られにくくなる」ということが予想されます。
中枢性感作の影響で本来備わっている「痛みの抑制機構」も破綻する
中枢性感作が引き起こされると、本来備わっているはずの中枢からの疼痛抑制機構(下行性疼痛抑制系)の機能低下を引き起こすとされています。
その事により、痛覚過敏やアロデニアの誘発を引き起こしたり、うつ症状や睡眠障害などが出現すると報告されています。
変形性膝関節症やTKA術後などでは末梢性感作から中枢性感作へ移行する可能性がある
急性期に侵害受容性疼痛から末梢性感作を生じ、疼痛が持続することで中枢性感作へ移行する場合があり、急性痛の段階でいかcdsl,wl:qdrf:c@4ep;3xe,@dp[sz@[21sz;に感作を生じさせないかが重要となります。
「TKA術後に過度な疼痛を出しながらROM訓練を繰り返し続けた場合、繰り返しの痛み刺激が感作を作り出し、痛覚過敏を引き起こし結果的に中枢性感作へ移行してしまう」
こんな流れがイメージできますね。
O’Learyらは前向き研究にて、感作の指標として高い時間的荷重(TS)と低い圧痛域値を指摘している
感作の指標とされている定量的感覚評価には、圧痛閾値(pain pressure test:PPT)や時間的荷重(temporal summation:TS)があります。
●圧痛閾値(PPT)⇒痛みの感じやすさの程度
(閾値が低いと痛みを感じやすくなる)
●時間的加重(TS)⇒短い一定の時間間隔で反復刺激を与えると、
シナプス後電位が加算されて大きくなる現象
という解釈になります。
理学療法が奏功しなかった症例の特徴として疼痛感作の存在を明らかにしており、感作の指標として高い時間的荷重(TS)と低い圧痛域値を指摘するという報告があります。
O’Leary H,et al:Pain sensitization associated with nonresponse after physiotherapy in people with knee osteoarthritis.Pain 2018;159:1877-1886より引用
なおTSとは、侵害刺激が繰り返されると次第に疼痛が増強される反応であり、Wind up(ワインドアップ)現象を反映していると考えられています。
wind up現象とは?
wind up現象とは、Mendelが1996年に主張した理論になります。
【wind-up現象】
痛みと感じない刺激でも短い間隔で反復して刺激すると痛み刺激に変化する現象
wind up現象は健常人でも生じる問題ですが、線維筋痛症などの患者では増幅程度が大きくなるなどの報告があります。
感作による問題は、身体機能だけでなく、心理的問題にも影響する
感作が生じている症例には、強い痛みと共にそれに伴う負の情動などの心理的問題や、患部を中心に広範な感覚障害を伴うことがあります。
さらに患肢の身体イメージの欠損など身体認識能力の低下を呈する症例もあり、こうした要因がさらなる感作の促進因子となる可能性もあります。
このことから、中枢性感作が生じている場合、中枢性感作に対する評価だけでなく、身体認識力の評価や感覚機能の評価、そして心理社会的要因の評価も併せて進めていくことが望まれます。
【身体認識力の評価】
➢neglect-like symptoms test⇒自己身体の認識能力を評価するスケール
➢The Fremantle Knee Awareness Questionnaire(FreKAQ)⇒身体知覚異常を評価するスケール
【心理社会的要因の評価】
➢HAND(Hospital Anxiety and Depression Scale)⇒不安や抑うつ状態を評価するスケール
➢PCS(Pain Catastrophizing Scale)⇒痛みの破局的思考を評価するスケール
➢TSK(Tampa Scale for Kinesiophobia)⇒運動恐怖感を評価するスケール
➢PSEQ(Pain Self-Efficacy Questionnaire)⇒自己効力感を評価するスケール
以上のような評価するスケールが近年の研究で頻繁に見かけるようになってきています。
2.感作に対する評価について
中枢性感作の臨床的な特徴は、器質的要因との不相応、神経解剖学的に一致しない広範な疼痛パターン、筋骨格系とは関係しない感覚過敏とされています。
【中枢性感作の臨床的特徴】
●器質的要因との不相応
●神経解剖学的に一致しない広範な疼痛パターン
●筋骨格系とは関係しない感覚過敏
中枢性感作を評価するものとしてはいくつか種類がありますが、高価な機器を要したり、すぐに活用できないものが多いことが課題として挙げられます。
そんな中、中枢性感作症候群(Central Sensitization syndrome:CCS)と呼ばれる概念があり、そのCCSに対する評価するスケールにCentral Sensitization Inventory(CSI)というものが開発され、中枢性感作に対して妥当性のある評価するスケールとして知名度が挙がってきています。
本来原版は25項目の評価項目がありますが、最近では9項目の質問で結果がわかるCSI-9という短縮版が開発され、より臨床で活用しやすいものになってきています。
3.中枢性感作への介入方法
膝OAには重症度に関わらず、一定程度、中枢性感作が関わっていることが明らかになっています。
また通常の理学療法が奏功しない症例の特徴として中枢性感作の存在が指摘されています。
中枢性感作の要素の強い疼痛患者に対する介入では、運動療法だけでは不十分で、患者教育を併用しながらの運動療法が必要になります。
患者教育で痛みへの考え方の是正を行った後、患者自身の痛みに対する認知へのアプローチを行うことが望まれます。
どういうことかというと、
中枢性感作は疼痛に過剰に感じやすい中枢神経系の機能異常であることを患者本人が理解することが治療の第一歩であり、神経生理学的な患者教育が重要であるとされています。
こういったちょっとややこしい内容を、出来るだけわかりやすく患者に対し説明し理解を促す役目が理学療法士にはあると思います。
また中枢性感作により生じる下行性疼痛抑制系の機能低下を回復させるための内服薬治療などの検討も医師と行っていくことも視野に入れる必要があります。
有名どころでいえば、サインバルタなどは感作に効果のある薬剤として挙げられます。
さらに、中枢神経系の活動は情動的・認知的側面と密接にかかわるため、中枢性感作は心理社会的要因とも強く関連していることがある程度明確になっているため、心理社会面に関する評価と対応が望まれます。
中枢性感作が引き起こされている場合、痛み刺激でない刺激でも痛みと感じたり、日常生活での刺激も過敏に感じたりしてしまい、必要な刺激も「悪い刺激」や「悪くする刺激」として捉えてしまう傾向にあります。
そのため、過剰に運動に対して恐怖心を抱いたり、過度に疼痛部位を保護しようとしたり、痛みに対するネガティブな思考(破局的思考)が増大してしまう傾向にあります。
この状態では単に活動量の増加を促しても効果は期待できず、むしろ悪化させてしまう可能性が高いわけです。
そのため、まずは患者自身の痛みに対する誤った認識や考え方を是正することが必要となります。
なにより、患者に対して、疼痛の認知に対する適切なフィードバックと不安解消の為のコミュニケーションを心掛けることが重要になります。
4.まとめ
今回は、中枢性感作についてまとめていきました。
以前は中枢性感作に関しては線維筋痛症患者に対するものである認識が強かったですが、近年では変形性関節症や腰痛症患者にも散見されるとの報告が挙がっています。
それだけ中枢性感作についての関心は高まってきているといっても過言ではありません。
これまでに行ってきた機能改善に重きを置いた理学療法から、心理・社会的要因までも含めた包括的な理学療法が期待されているが故の流れ(時代の流れ)であると思います。
逆を返せば、機能に対するアプローチだけでは限界があるという結果なのかもしれません。
今後は、「患者自身がどのように痛みを感じているのか?」といった”主観的な評価”も客観的な評価だけでなく意識して取り込んでいく必要がありそうです。
それでは本日はこの辺で。
最近記事の更新が遅れがちですが、継続して更新してきたいと思いますので、今年もよろしくお願いします。
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