どうも。
Knee-studyです。
今回はTKA術後の理学療法について記事にしていきます。
膝OAに対し、TKAの手術を受けた後はリハビリを行います。
術後は炎症による痛みで膝の可動域制限および歩行障害を呈します。
多くは急性期症状が落ち着くのに合わせて徐々にADLも上がってきます。
術後のリハビリではこの急性期症状が遷延しないよう管理しながら機能改善や廃用予防に努めます。
今回は、このTKA術後の理学療法の流れや注意点などについてまとめていきたいと思います。
1.TKA術後の理学療法の実際
TKAは人工関節を置換する手術であるため、術後早期から全荷重が可能になります。
そのため、早期からのADL改善が見込まれ、これも術後成績に好影響を及ぼしている一つの因子になります。
このように理論上はTKAの術後はササ―っと治っていくイメージが湧いてきますが、
実際は術後の痛みや膝の可動域制限や痛みによる下肢の支持性低下、バランス機能低下など
様々な問題が出現し、その都度対応していかなければなりません。
そういった問題に上手く対応し患者を適応する方向に誘導していくことが術後リハビリの一つのポイントになるものと思われます。
ここでは、術後リハビリ介入開始から状態が落ち着いてくる術後3~4週目までの状態変化とその間の理学療法について説明していきます。
術後1~2日目の状態変化と理学療法について
術後1~2日目が最も状態の変化が大きい時期になります。
術後はバルーンが留置されておりオムツ対応になっています。
そして、硬膜外鎮痛法(現場では”エピ(Epi)”と呼んでいます)により痛みを抑制しています。
また、状況によっては酸素投与が継続されていたり、モニターが付いたままであることもあります。
※内科疾患が既往である場合に多い
このように術後早期は身体についたものを一つずつ取り外されるのを待ちながら機能訓練を行う時期になります。
そして、この時期の理学療法としては、
●基本動作(起きれる・立つことが出来る・歩けるetc…)が可能かどうかのチェックと動作指導
●術後の炎症症状のチェックとアイシングの実施
●過度な痛みがない範囲での膝のROM訓練・リラクセーション
を行っていきます。
術後1~2日目に主にリハビリで関係のあるチェックポイントは以下の通りです。
●バルーン抜去する時期を評価
バルーン抜去のためには自身でトイレに行ける能力が必要です。
最低限ポータブルトイレへの移乗が可能になればバルーン抜去を検討します。
当院では高齢患者も多いことから、術後1日目でもトイレ動作が可能でも転倒リスクを考慮し、大体術後2日目にバルーン抜去を行っています。
●Epi(硬膜外鎮痛法)による下肢の感覚障害の有無をチェックし離床を進める
Epiの影響で下肢の脱力や感覚障害を呈していることがあります。
まずはベッド上で術創部の確認を行い、感覚機能のチェックを行います。
その後、状態が良ければ一度起立動作を行います。
その際にしっかり下肢の支持性があるかを評価します。
Epiが効きすぎている場合などは、感覚機能の低下と下肢の支持性低下をきたすため、その際はNsに報告し、積極的な離床は控えるようにします。
※下肢の支持性が低い場合、転倒リスクは非常に高まるため注意が必要になります。
●モニター管理や酸素投与が継続している場合は、バイタルチェックをしながら離床する
モニター管理や酸素投与が行われている場合は、なんらかのリスクがあることを示しています。
そのため離床に対してはDrやNsに確認してから行っていきます。
状態が良ければ離床を進めていきます。
酸素の値を評価するSPO2ですが、臥位と座位の状態で変化することもあるため、離床した際はSPO2の変化を記録し後でNsに報告していきます。
※モニター管理については、経過の観察として一応付けているという場合もあるため離床の可否はその都度指示を仰ぐようにして、不要な廃用症候群を起こさないように注意していきます。
術後1週間までの状態変化と理学療法について
バルーンやEpiが抜去され、比較的身軽な時期に移ります。
ただし転倒のリスクが潜んでいる時期になるため注意をしながらADLupを図ります。
※比較的若い年代(60歳代)の場合は転倒リスクはかなり低いですが・・・
この時期の理学療法としては、以下の項目に取り組んでいきます。
●移動手段の確立と自立の判定を行う
この時期から徐々に歩行が可能になります。
痛みが少ない場合は杖もしくは独歩での移動も可能になってきます。
多くは歩行器を使用しての移動が自立になる時期です。
認知機能もよく、痛みによる跛行が少ない場合は移動の自立を許可します。
●排泄の自立の判定を行う
術後ポータブルトイレを使用している場合は、通常のトイレを使用するように変更していきます。
また、排泄動作自体の自立を検討していきます。
TKA術後は膝の可動域制限をきたすのが大きな課題になります。
排泄動作では立ち座り動作が必須になるため、膝の可動域によっては動作が困難になることもあります。
そのため、膝のROM訓練と実際のトイレを想定した動作訓練および指導を行い、動作に馴れていきます。
自室のベッドは高さ調整が可能であり立ちやすい設定に出来ますが、トイレの高さは変えることが出来ないため、人によっては非常に苦労することもあります。
●炎症症状による疼痛の管理を自身で出来るよう指導する
この時期ではベッドで寝た切りではなく、起きて生活することが比較的楽に行えるようになってきます。
そのため、自身で手術した膝に対して何かしらの変化を加えることが可能になってきます。
そこで、この時期からアイシングを勧めていきます。
アイシングに関してはエビデンスが確立されていないため、実施しない施設もあると思います・・・。
当院ではDrに意向で積極的にアイシングを勧めています。
実際に、熱感や腫脹を起こしてパンパンになった膝に対してROM訓練を行うと内圧が高まりすぎて術部からの出血を招くことが懸念されます。
まずはアイシングを行い、なるべく腫脹を軽減させてから関節を動かす方が痛みも少ないですし、可動域も順調に改善してきます。
※ここは個人的な意見です・・・。
ただし、アイシングは積極的に勧めていきますが、時間の管理とタイミングについても併せて指導を行います。
術創部の治癒の促進を考える上では十分な血流量が必要ですからいつまでも冷やして循環を妨げるのは控えるようにしています。
基本的には、運動後に熱感や腫脹を感じるときに15~20分程度しっかりアイシングをするように指導を行っています。
”アイシングの効果”と”冷やし過ぎによるリスクの説明”と説明し理解を促した上でアイシングを行ってもらいます。
術後1~4週間までの状態変化と理学療法について
術後1週間過ぎてからは、身体機能・精神状態的に落ち着いてきます。
そして、徐々に在宅復帰に向けた理学療法に移行していきます。
●階段昇降
●床上動作
●屋外歩行
など・・・。
また膝の可動域によっては、エルゴメーターを行い膝周囲の協調性改善や耐久性改善を図って行きます。
この時期に注意すべき点は以下の通りです。
●過負荷による膝痛の再燃
膝の筋力は術後一旦低下し、術後から3~6か月後に術前よりも向上するといわれています。
このことから、術後間もないこの時期は状態がよさそうに見えても無理は禁物になります。
調子がいいからといって、歩行訓練をしすぎたり膝に負担のかかる動作および姿勢を長時間取るなどの訓練は控えるようにしていきます。
患者には運動の勧めと同時に、どうすれば膝に負担がかかってどれくらい運動したらダメなのかを認識させることが大事です。
(限界を理解してもらう)
●リハビリの時間以外の過ごし方(自主トレーニングなど)
状態の改善に伴って、院内ですることが無くなってきます。
要するに「暇な時間」ができ始めます。
ここで、時期に合わせた自主トレーニングを指導していきます。
アイシングも自主トレーニングの一つに入りますね。
これは退院してからも膝の機能を維持してもらうためには必要なことになるため、パンフレットなどを手渡して指導していくことをお勧めしています。
患者さんは効果を実感でき、必要性を理解して頂ければ、ある程度自主トレーニングを継続してもらえます。
2.TKA術後に注意すべき事(リハビリを行う上での注意点)
上記では、実際にTKA術後の流れを紹介していきました。
手術という大きな刺激を身体は受けるため、回復するにはある程度の時間は必要になり、その間の過ごし方やケアによっては退院時の満足度に差が出てきます。
そのため、他職種と上手く連携していきたいものですね。
ではここからは、前述でも少し触れましたが、TKA術後に注意すべき事について少し詳しくまとめていきたいと思います。
①急性期症状(炎症症状)の回復が遷延しないように心がける
まず一つ目は、急性期症状の回復を阻害しないようにADLupを図ることです。
この話は前項でも少し触れた内容になりますが、もう一度説明していきますね。
術後、一時的に膝の可動域制限が出現します。
この制限の大きな原因は急性期症状である”炎症”が大きく関わっています。
膝の可動域改善は出来るだけ早期からがいいし、可動域制限がない方がADLはスムーズになることから、無理なROM訓練を行ってしまうセラピストも存在します。
でも、無理な可動域訓練や過度な荷重訓練は急性期症状(炎症や腫脹)の改善の邪魔になることは当たり前の原理です。
だからといって、すべてを自然に任せてただ見守るわけにもいきません。
機能改善やADLupのために適切な方向へ患者さんを誘導していく必要があります。
そのためには、急性期症状をある程度把握して、状態の変化を見ながら訓練を提供していく必要があります。
先述しましたが、膝の可動域制限は炎症症状が大きな原因の一つでもあるため、積極的な可動域訓練を行う前に炎症症状に対するアプローチをひとつ加えるなどの機転を利かせると効果は違ってくると思います。
急性期症状(炎症症状)に対してはアイシングが効果的
急性期症状は、手術による侵襲に対する反応になります。
つまり、手術で損傷した組織の修復を行うための反応であると解釈できます。
このことを考えると、炎症症状って傷の修復の観点からみると悪い反応ではないことがわかります。
つまり、術後は適度な炎症があった方が術部の修復は早くなることが考えられますね。
ただし、過剰な炎症反応は痛みの誘発、そして痛みの慢性化にも繋がってくるため注意が必要です。
上記のような、問題に対処するために、術後はアイシングを推奨しています。
≪アイシングによる効果≫
●患部の温度を低下させる(熱感↓)
●細胞の新陳代謝を低下させる(冷却によって血流と組織レベルでの代謝が低下するため)
●局所の炎症が軽減する(腫張の抑制)
●痛みを和らげる(神経の伝達速度を低下させる)
●血液循環への影響
●筋緊張の抑制(リラクセーション効果)
②痛みを感じやすい?か感じにくいか?を把握しておくこと
TKA術後の1~2割は慢性痛に移行するといわれています。
つまり、極端な話、痛みを取るために手術を行ったのに、痛いまま退院させられるということです。
痛みは主観的なものになるため、些細なことで痛みは増悪します。
どの患者さんに対しても積極的なROM訓練を行うのではなく、痛みの状況などにより訓練内容を変更できるようにしておくことで術後の慢性疼痛の移行は未然に防ぐ事ができるかもしれません。
痛みが強い場合や、術前から痛みの訴えが強い場合などは、術後の可動域訓練はpassiveよりもactive中心で進める、筋収縮を入れながらの運動に切り替えるなど、患者自身で動かすactive系の運動に切り替えるなどの対応を取ります。
③「TKAの使用機種」・「術中の可動域」・「膝自体タイトなのかルーズなのか」などを把握しておくこと
以前の記事でも紹介しましたが、TKAにはいくつかの機種がありそれぞれ特徴があります。
このTKAの使用機種によって術後リハビリ時に注意する点が多少変わってくるため、把握しておく必要があります。
また、使用機種以外にも取り扱っている業者によって同機種でも特徴に違いがあること(オプション的な)がありますので、一度はDrに確認することをお勧めします。
また、術中の可動域も術後リハビリを行う上で大事な指標になります。
術中の麻酔下の状態で膝の可動域制限が残存している場合は、術後も可動域制限が残存する可能性があります。
逆に、術中はしっかり可動域が確保できているのに術後制限が残存している場合は、軟部組織や疼痛が影響していることが示唆されます。
つまり、構造的な問題なのかそうでないのかを判断するためにも術中の可動域を把握しておくことが重要です。
知らずに過度なROM訓練を行って事故が起こってしまっては大変になります。
そして、TKAを行う際、インプラントやインサートの具合によって若干タイトになっている場合と逆にルーズになっている場合があります。
執刀医の判断で調整している場合があるため、術後Drに一度確認することをお勧めします。
3.まとめ
今回は、TKA術後の理学療法についてまとめていきました。
●TKA術後は急性期症状を把握した上で、ADLupを図って行く必要があること
●痛みの程度を把握し、状態によってアプローチ内容を変更できるようにすること
●TKAの使用機種によって理学療法アプローチの内容も多少変わってくるため、術後確実に把握しておくこと
以上の点に注意してTKA術後リハビリを行っていくことが大切であることを説明していきました。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!
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