どうも。
管理人のKnee-studyです。
今回はTKAの歴史についてです。
そもそも、このブログを開設した時点でお話しするべきであろう内容ではありましたが、そんな昔の話をしてもな・・・と思うところもありまして。
さらには私自身もそこまでTKAの歴史については知ることもなかったことから、触れてこなかった部分になります。
膝関節は下肢の関節の中で中間関節として捉えられており、全身を広く診ようとするセラピストほど膝関節疾患でも他関節から見てしまう傾向にあると思われます。(自分もどちらかと言えばそう・・・)
しかし、人工膝関節について深く掘り下げて勉強していくと、やはり膝関節単体としてもしっかり評価していくべきであると考えさせられます。
「木を見て森を見ず」というように、確かに局所に意識が行き過ぎることがNGでありますが、逆もしかりで「森を見て木を見ず」になっていることも我々の業界では多々あることだと思います。
※機能と活動に関しても同じようなことが言われていますよね・・・。
と、話は少しずれてきてますが、やはり膝関節疾患を診ていく以上、膝関節の事、特にTKAという手技の事はある程度理解しておく必要があるということが言いたいわけですね。
前置きが長くなりましたが・・・
ということで、今回は、そんなTKAの歴史について少し掘り下げてまとめていきたいと思います。
1.黎明期(TKAの始まりの時期)
痛んだ部分のみ置換という発想は、自然なことです。
中間膜挿入術が1860年に創始され、数十年間工夫され続けたが成績は不良でした。
1937年バイタリウムが認可され、金属mold arthroplastyが行われたが、生体反応、材料強度、固定法、病的バイオメカニクス放置などのために失敗に終わっています。
片側表面関節形成術のみ生き残り、Macintosh型の脛骨板は1970年代まで広く臨床使用されたが、不安定性や脱臼、沈み込み、対側関節面の変性などで使用が中止されています。
変形性膝関節症(膝OA)も関節リウマチ(RA)も軟骨に限定した病変ではなく、骨・靱帯・関節包・筋肉を含んだ関節全体の病的状態であることから、痛んだ部分のみ置換しても、全体の病的状態を十分改善できるわけもなく、失敗は当然ではありました。
一見すると膝は、屈曲伸展の一軸蝶番関節に見えることから、生体力学に理解が浅い時期には、膝を一軸蝶番人工関節で置換する試みがなされていました。
1890年にGluckによる象牙製一軸蝶番人工膝関節をギプスと松脂で固定したという報告がありますが、結果が悲惨であり、これ以後、中間膜挿入が追及されたが、1950年代に成績不良が明らかになり、蝶番型関節置換が見直され始めました。
1947年にJudetが蝶番型TKAを開発、以後Walldius(1951年)、Shiers(1953年)など次々に開発されましたが、10年も経たずに弛み、破損とmetallosis(金属症)、感染が多発、成績不良が明らかになっています。
ある程度の成績を残せたのはGuepar(1969年)だけであり、アライメントに7°外反角を付け、軸後方設置、ポリエチレンバー採用など、少しでも生体膝のバイオメカニクスに近づけようとしていた結果とされています。
生体力学の理解が深まると、回旋許容機構が必要であると認識され、回旋と遊びを許容するfloppy hinged kneeとしてkinematic rotating hinge(1978年)が開発され、現在はmobile bearing systemを取り入れ、耐用性向上を図った改良型が各社から発売されています。
2.膝関節が回旋を要す関節であることが認識され始めた時期
蝶番型TKAの成績不良に対し、安定性と回転と滑動の混合動作誘導を十字靱帯や側副靱帯によって獲得し、人工関節に対するストレスを軽減するというコンセプトの表面置換型人工関節が開発され、その開祖がpolycentric knee(1969年)でした。
非連結型、金属・ポリエチレン摺動面、骨セメント固定の特徴を有し、臨床的成績は不良でしたが、現代TKAの遠い祖型ともいえるものになります。
Polycentricが突破口を開いた後、1979年代は同様のコンセプトのTKAの開発競争となり、Coventryのgeometric knee(1972年)をはじめとして、anatomic knee(1973年)、leeds knee(1972年)、UCI(1972年)、DuoCondylar(1973年)→Duopatellar(1974年)、variable axis knee(1974年)などが次々に臨床応用され始めました。
膝関節全体のキネマティクスと解剖の再現を目指した工夫が積み重ねられ、ある程度の実用性が実現しましたが、可動域制限・脛骨部品の沈み込みなど成績はいまだ不十分でした。
この過程で、以下の3つのポイントが重要であると認識されるようになってきました。
①回旋許容性が必須で、膝蓋大腿関節の置換またはカバーが必要なこと
②脛骨部品は海綿骨だけでは支えきれずペグあるいはキールが必要な事
③十字靱帯温存型では正確な設置が困難で、部品間のconstraint(拘束性)が強く、後十字靭帯(PCL)の拘縮があると屈曲時の応力集中による脛骨部品の沈み込み、弛みに繋がること
3.Cruciate retaining(CR型)とposterior stabilizer(PS型)の開発
バイオメカニクス研究が進捗し、屈曲角度増大には大腿骨のrollbackが必須で、PCLの役割が重要だという認識が広まりました。
これを重視し、PCLを温存して部品間のconstraint(拘束性)を減少させ、境界面へのストレスを減少させるというコンセプトでcruciate retaining(CR型)TKAが開発されました。
CR型TKAについてはこちらの記事で詳しく説明しています。
https://knee-blog.com/cr-tka/
それに対し、脛骨上面のポストと大腿骨のボックスの嚙み合わせで大腿骨のrollbackを起こすpost-cam機構でPCL機能を代償する改変を行い、1978年posterior stabilized knee(PS型)が開発されています。
PS型TKAについてはこちらの記事で詳しく説明しています。
https://knee-blog.com/ps-tka/
以後、CR型とPS型はTKAデザインの二大潮流となり、種々の機種が開発されています。
4.Mobile bearing knee(より大きな膝関節可動域の獲得と安定性の両面の獲得を目指して)
CR型とPS型の二大潮流がTKAの中で浸透されてからは、より可動域と安定性の獲得を考慮した取り組みが進んでいきます。
膝運動時の多方向性運動を許容するには、conformity(適合性)の低い平滑な関節面が必要ですが、接触面積減少と接触圧増大をきたし、摩耗を招きます。
Conformity(適合性)を高くすると可動域減少、インプラント・骨境界面への過負荷による弛みを招きます。
ポリエチレンの下面に第二の摺動面(滑りやすさ)を導入することで、このジレンマを解消しようというのがmobile bearing kneeになります。
1978年New Jersey low contact stress knee(LCS)が臨床的に成功をおさめ、mobile bearing機構をもつ機種が続々と開発されましたが、生体内でが設計上の想定ほど動いていないという報告が多く、臨床成績もfixed bearingと差がないのが現状です。
まとめ
TKAの現在はCR型やPS型の機種を基礎に、バイオメカニクス理解の深化に伴なって、いくつかのポイントが注目を浴びるようになっています。
●medial pivotの再現
●両十字靱帯機能再現(bicruciate substiuting:BCS‐TKA)
●逆に十字靱帯を温存する両十字靱帯温存(bicruciate retaining TKA:BCR-TKA)
など、近年のトレンドは”正常に近いバイオメカニクスを人工関節のデザインにより再現する”という方向にあります。
medial pivotについては以下の記事で紹介しています。
https://knee-blog.com/medial-pivot-motion/
medial pivotについての研究を紹介した記事はこちらです。
https://knee-blog.com/tka-medial-pivot-motion/
一方で、先日の記事でも紹介しましたが、ナビゲーションによる設置技術の改善などを追い風に、”より正常なバイオメカニクスが残存する部分関節置換術(UKA)”も近年で実施件数が右肩上がりになっています。
UKAについての記事はこちらで紹介しています。
https://knee-blog.com/uka-nituite/
UKAとTKAを比較した研究を消化した記事はこちらです。
https://knee-blog.com/unicompartmental-knee-arthroplasty/
しかしこのように、年々新たな機種や取り組みが開発されていますが、長期成績などはいまだ不明であるという点を考慮する必要があると思います。
新たな手技ほどリスク面を考慮する必要があり、臨床成績の面で不安が残ることになるため、現場で取り扱う際も、注意が必要になり今まで以上に他職種との連携(特にDr)が必要になってくると思われます。
ただ、こうやって患者さんにとってより良いものが開発されていくものでもあるということを考えると、ただなんとなく同じようにリハビリを行っていくのはさみしい感じもしますね・・・。
そう感じないように常に患者さん第一に考えながら臨床に取り組んでいきたいものですね。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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