どうも。
管理人のKnee-studyです。
今回は、TKA術後のリハビリについて考えていきます。
TKA術後は以下の問題が生じます。
●膝が曲がらない
●膝がこわばる
●歩き始めなど、動き始めが痛いor動かしにくい
●膝の感覚が鈍くなっている
などなど・・・様々な症状ないし訴えが出現します。
当然、そういった問題がない方もいますが、多くは上記のようなことが生じ困ることがあります。
こういった問題に対し、TKA術後に自転車エルゴメーターを選択し、実施することは多くの施設でも見受けられます。
実際に、自転車エルゴメーターを漕げるようになるまでには、大前提として、ある程度の膝の屈曲角度が必要になります。
今回は、TKA術後のリハビリで自転車エルゴメーターの有用性について文献を交えてまとめていきます。
1.実際のTKA術後のリハビリの流れ
TKA術後の流れは以前の記事で紹介しました。
そもそも日常生活を支障なく遂行するためには、膝関節は0°~120°の関節可動域が必要になるといわれています。
TKA術後でもこの膝屈曲120°を目標に術後のリハビリを進めることが至極当たり前のようになっています。
TKA術後は当然、痛みの訴えが強く、なかなか膝の可動域改善は得られません。
やはりある程度の日数は必要になります。
多くは術後2週~3週にかけて膝の屈曲可動域が120°を越えるようになります。
そして、移動能力も順調に改善し術前の移動形態もしくはそれ以上の移動手段を獲得している段階になります。
TKA術後に自転車エルゴメーターは実施している?
人工膝関節術後のリハビリで悩む点として、膝の可動域制限以外にも、意外と多いのは「膝のこわばり感の訴え」になります。
動き初めの違和感や膝を不意に動かした際の過緊張は術後特有のもののような感じがします。
これは、膝の協調的な活動の問題が深く関わっていることが予想され、この協調的な活動の制限には膝の疼痛が強く関わっていることが考えられます。
疼痛とは、主観的な表現であり、状況によっては本来感じている疼痛よりも大きい疼痛を感じる可能性を秘めており、実際に本来ある侵害刺激にそぐわないレベルの疼痛を感じる例も散見されています。
このような場合、積極的な他動でのROM(セラピストが無理に膝を曲げるなど・・・)は逆効果となり、疼痛の増悪や膝の可動域制限の遷延など負のループを招きやすいです。
こんな場合は、「患者自身で行う運動」や「患者が自主的に行う運動に合わせて介助する運動」などの自動運動および自動介助運動が推奨されます。
そういった背景を捉えていくと、自転車エルゴメーターがうってつけの運動になってくる訳です。
●自転車エルゴメーター=患者自身が行う運動(自動運動)
●自転車エルゴメーター=連続した膝の屈曲運動が可能になる
このように、自転車エルゴメーターはTKA術後の理学療法にとって非常に有益に働く可能性を秘めているわけです。
TKA術後に自転車エルゴメーターを行うことで得られるであろう効果について
自転車エルゴメーターにより得られる可能性のある効果は以下の通りです。
●膝の固有感覚の改善
●筋の協調性改善(膝の動かしやすさの改善)
●下肢の循環改善(腫脹や浮腫の改善促進)
●膝の関節可動域の改善(繰り返しの運動によりこわばりの解消⇒可動域改善)
このような効果が期待されます。
TKA術後何週目から?~自転車エルゴメーターの実施時期~
上記のような自転車エルゴメーターの効果が考えられる中で、「いつから実施するべきなのか?」という疑問が挙がってきます。
ここに関しては、”疾患”で決めるよりも”病状”で決めるべきであると思います。
同じTKAの手術でも術前の変形の度合いや痛みの程度によって術後の可動域の改善具合は大きく変わります。
※ここはこれまでの研究で明らかにされており、エビデンスとして挙げられています
このことから、術後○日から自転車エルゴメーターを必ず開始するべき!的な主張はNGになります。
あくまで、自転車エルゴメーターを駆動できる膝の可動域を確保できて、自転車エルゴメーターを駆動するだけの能力及び精神状態が確保できた場合に実施すべきであると思われます。
自転車エルゴメーターを行うことで感じる効果~臨床で実際に主観的・客観的に感じる効果~
上記の流れで、自転車エルゴメーターを実施可能であると判断し、実施した場合の効果について書いていきます。
【自転車エルゴメーターを行うことで得られるであろう効果】
●自転車エルゴメーター実施後に膝のこわばり感が軽減ないし消失する
●繰り返しの膝の運動を行うことで膝の可動域改善が得られる
●繰り返しの膝への刺激により固有感覚の賦活が行われる可能性がある
上記のようなポジティブな効果を臨床では感じます。
その反面、”適応”というか、”いつ行うか”については対象者によって大きく変動するイメージがあるのも実際です。
それを踏まえて、TKA術後に自転車エルゴメーターを行うことで逆効果を引き起こす可能性のある状態について以下に記します。
【自転車エルゴメーターを行うことで逆効果になる可能性のある例】
●TKA術後の疼痛が強い場合(痛みに対し過剰に反応してしまう場合)
●他動ROMに対し自動ROMが極端に制限されている場合(他動の場合は120°屈曲可能でも自動では90°しか屈曲できないなど・・・)
●膝を動かすことに恐怖心が強い場合
上記のように、ネガティブなイメージを持っている場合や、実際に膝の制限が残存している場合は、自転車エルゴメーターの実施が逆効果になる例が多々見受けられます。
「自転車エルゴメーター=自動運動」
このような方程式が成り立つため、評価の対象は「自動ROM」の結果になります。
いくら他動での膝屈曲ROMの結果が良くても、自動での制限が残存していれば自転車エルゴメーターの実施がマイナスになる可能性があると予想していく必要があります。
2.TKA術後の自転車エルゴメーターの有用性について
上記の話から、TKA術後に自転車エルゴメーターを実施し、膝の動きを良くしようとする狙いは有効とされているイメージがありますが、今回紹介する文献ではやや否定的に捉えられているようです。
文献自体は2010年と少し前のものになりますが、この時は、THAの場合は自転車エルゴメーターの有用性は確認されたものの、TKAに至っては自転車エルゴメーター効果はないと結論付けられています。
以下に報告していきます。
人工股関節あるいは人工膝関節置換術後の自転車エルゴメーター:無作為化比較対照試験
この研究では、THAまたはTKA後における自転車エルゴメーターの使用が、健康関連QOLおよび患者の満足度に及ぼす効果について検証しています。
対象と方法
対象は、変形性関節症又は骨壊死により片側のTHAまたはTKAを受けた362症例でした。
THAおよびTKA症例をそれぞれランダムに、自転車エルゴメーター使用群と非使用群(対象群)の2群に分けて比較を行っています。
主アウトカムとして、Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の身体機能評価を開始時と術後3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月にそれぞれ行なっています。
二次的な評価として、WOMACの疼痛とこわばりの項目、 SF-36の身体的健康度のサマリースコア(PCS スコア)、Lequesne hip and knee score、および満足度の評価を行なっています。
結果と結論
●開始時の各パラメーターに関しては、それぞれ2群間に有意差はなかった
●THA後はアウトカムの全てのパラメーターでエルゴメーター使用群が全てのフォローアップ期間において高い値を示した
●主アウトカムであるWOMACの身体機能評価点では、術後3ヶ月で、使用群が21.6点、非使用群が16.4点(効果量:0.33, p=0.046)、24ヶ月で使用群が14.7点、非使用群が9.0点(効果量:0.37, p=0.019)と使用群が有意に高かった
●患者の満足度に関しては、使用群の方が「非常に満足している」と回答した症例の比率が全ての期間で高い値を示し、術後3ヶ月では使用群が92%、対照群が80% と有意差(p=0.027)が認められた
●TKA術後に関しては、両群に有意な差は認められず、主アウトカムにおけるMCIDの絶対閾の5.3点に至らなかった
上記のことから、THA後の自転車エルゴメーターの使用は、術後早期およびその後の患者の健康関連QOLと満足度において、有益な効果をもたらすことがわかりました。
しかし、TKA後の使用に関しては、その有用性を支持することはできないという結果になっています。
引用文献
Liebs TR, Herzberg W, Ra”ther W, Haasters J, Russlies M, Hassenpflug J: Ergometer Cycling After Hip or Knee Replacement Surgery: A Randomized Controlled Trial. J Bone Joint Surg Am. 2010; 92:814-822.
※日本語翻訳バージョンもあります。
「人工股関節あるいは人工膝関節置換術後の自転車エルゴメーター:無作為化比較対照試験」で検索するとみることが出来ます。
3.まとめ
今回は、人工膝関節の術後リハビリで自転車エルゴメーターは有効かどうかについて考えていきました。
臨床での自転車エルゴメーターの普及率に反して、文献ではTKA術後に実施しても有効かどうかは不明であるとされています。
自転車エルゴメーターを行うことで、膝の固有感覚や筋の協調性改善および下肢の循環改善、膝の関節可動域の改善が期待できると推測されている反面、明確なエビデンスは記されていないことを理解したうえで訓練内容に自転車エルゴメーターを導入していきたいと思います。
臨床で感じる自転車エルゴメーターの効果としては、比較的高く、実施後は膝のこわばり感の解消や膝の関節可動域の改善など得られる効果は多いように思います。
しかし、適応といった面で実施可能な方とそうでない方がはっきり分かれる傾向にあります。
これは自転車エルゴメーターでは膝の動きが他関節よりも必要な可動域が大きいためであると思われます。
術後膝の痛みが強い場合や、恐怖心が強い場合、自転車エルゴメーターはほとんどの確立で実施できません(痛みで漕げないため・・・)。
今回紹介した文献では、自転車エルゴメーターを開始する時期を設定して研究していたため、TKAの方は有益な結果が出なかったのでは?とも思われます。
「術後膝の関節可動域の改善がある程度(屈曲120°以上)得られたのちに、自転車エルゴメーターを開始する」と設定を変えて研究をするとまた違った結果が出るのではないかとも思われます。
それだけ、TKAの場合術後の可動域に差が出やすい傾向にあります。
結局は、文献をベースに考えつつも、セラピストが必要と判断したならば自転車エルゴメーターも勧められると思います。
すべては術後の回復のための”手段”になるわけですね。
自転車エルゴメーターも”手段の一つ”として考えていきたいと思います。
それでは本日はこの辺で。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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