どうも。
管理人のKnee-studyです。
今回は、人工膝関節(以下、TKA)についてです。
TKA術後は、合併症を引き起こすリスクがあります。
よく挙げられる合併症としては、「感染」・「弛み」・「深部静脈血栓症(DVT)」などがあります。
今回はその中の「弛み」について紹介していきます。
TKA術後の「弛み」は、TKAの再置換術の最大の原因となります。
今回は弛みの原因となる要素をいくつかピックアップしていきたいと思います。
1.TKA術後に弛みが生じる原因について
TKA術後の弛みの原因としては、
①人工関節周囲に起こるosteolysis(骨溶解)
②ポリエチレンインサートの摩耗
③肥満や術後の活動性に起因する過剰な負荷
④アライメント不良
⑤インプラントデザイン自体の問題
⑥インプラントの固定性不良
⑦関節不安定性
⑧感染
などが挙げられ、複数の原因が絡み合って発生するといわれています。
TKA術後の耐久性に重要なこととしては、人工関節周囲の骨質、母床の状態が良好に維持されていることであります。
人工膝関節周囲の骨密度は術後数か月低下することが知られており、術後1年で約23%程度低下するという報告があります。
術後の人工関節周囲の骨密度低下は、手術侵襲、炎症、術後の荷重時におけるメカニカルストレスによる骨リモデリングが影響しています。
この人工関節周囲の骨密度低下は、一般的に術後3年後には正常化あるいは進行が停止するといわれています。
人工関節周囲のosteolysis(骨溶解)は、長期的な人工関節あるいは骨母床へのメカニカルストレスによって起きます。
以下に「弛み」を生じる原因をいくつか紹介します。
①ポリエチレンインサートの摩耗
人工関節では超高分子量ポリエチレンが用いられることが多いです。
人工摺動面におけるポリエチレンインサートのabrasive wearなどによって生じた摩耗粉がマクロファージに貪食され、破骨細胞が活性化してosteolysis(骨溶解)を生じ、弛みを引き起こします。
ポリエチレンインサートの摩耗を減らすことで弛みの発生を減少させ、耐久性および治療成績の向上が期待されます。
ポリエチレンインサートの摩耗についてはいくつか種類があります。
・abrasive wear ⇒人工膝関節が正常に機能している状態でもある程度生じるもの
・fatigue wear(疲労摩耗) ⇒繰り返す衝撃や長期使用による材質強度の低下により生じるもの
・crack(ひび割れ) ⇒摺動面により生じるもの
・third fragment ⇒骨片やセメント片などインサートとコンポーネント間に迷入して摩耗の原因になる物体の事
一般的に、ポリエチレンインサートがその強度を保つためには8㎜以上の厚さが必要とされており、薄すぎるポリエチレンインサートは摩耗よりも破損が問題となります。
②人工関節への過度な負荷
体重が重いほど人工膝関節にかかる負荷が大きくなり、摩耗やアライメント不良、骨の圧潰の要因となります。
BMIが33.7%以上の群では、それ以下の群に比べ脛骨内側の骨の圧潰が有意であったという報告もあります。
生体でのTKA脛骨インプラントの受ける接触圧を調べた研究では、階段後段時は最大で体重の346%の負荷がかかり、続いて階段昇段時に体重の316%の負荷がかかっていることがわかっています。
また若年者では高齢者に比べてアクティビティが高く、スポーツなどを行う場合はポリエチレンインサートへの負荷が増大し、摩耗の要因となります。
③アライメント不良
TKAインプラントの設置において、適切なアライメントと靱帯バランスの獲得は、良好な長期成績を得るためにきわめて重要となります。
機能軸から3°以上内反位に設置された脛骨コンポーネントは、脛骨内側の骨に大きな荷重ストレスを与え、骨の圧潰やコンポーネントの沈下、セメントクラック(ひび割れ)を生じさせるリスクが上昇し、結果としてインプラントと骨、セメント間で弛みが生じる可能性があります。
内・外側の靱帯バランスが不均等であれば関節不安定性を生じるため、繰り返される不均等な荷重ストレスの結果、fatigue wear、コンポーネントの沈下および骨の圧潰を引き起こして弛みに繋がります。
④インプラントデザイン
ポストカム機構を有するデザインでは、屈伸運動に伴う関節適合性が高く、広い接触面積を通してポリエチレンインサートへ圧負荷がかかるため、摩耗に対しては理論上有利となりますが、正常な大腿骨ロールバックが働かない場合は、かえってポリエチレンインサートの一部に応力を集中させ、破損を生じてしまう可能性もあります。
⑤固定性不良
インプラントの初期の固定性不良は、早期のインプラントの弛みに繋がります。
TKAインプラントの固定法は、セメント固定とセメントレス固定がありますが、初期固定という観点からは、術中にほぼ初期固定が完了するセメント固定の方が有利と言えます。
骨セメント接触面での適合性は重要で、インプラントの生存率に影響を及ぼします。
セメントレス固定であっても、骨質がよくスクリューによる固定性が良好であれば初期固定は問題にならず、bone ingrowthによる長期的安定性も報告されています。スクリュー周囲からwear debrisが侵入する可能性もあります。
また関節リウマチ(RA)のように骨強度が低下しているような症例では、セメントレス固定では強固な初期固定を得る事は難しく、セメント固定が推奨されます。
2.まとめ
今回はTKA術後の「弛み」について文献を交えてまとめていきました。
TKA術後の再置換に至る原因としてこの「弛み」が非常に大きなウエイトを占めています。
術後のリハビリを行う上で、対処できる範疇を越えていますが、リスク管理上は知っておいても損はない情報ではないかと思います。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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