どうも。管理人のKnee-studyです。
今回は人工膝関節について記事にしていきたいと思います。
前回の話の続きになるような形となります。
人工膝関節は変形性膝関節症に対する手術的治療法として除痛・機能回復の面から極めて有用となることはこれまでの記事中でもふれています。
そんな人工膝関節ですが、成績向上のためにはインプラントを至適な位置に設置することが非常に重要とされており、下肢機能軸を正確に再現することがpointとなります。
至適設置位置について冠状面(前額面)における報告は多数あるものの、矢状面での報告は冠状面と比較すれば少ないです。
冠状面に関しては、どちらかというと今ホットな話題であり、キネマティックアライメントとメカニカルアライメントの2つのアライメントの取り方を比較する報告が多く挙がっています。
と、冠状面の話はとりあえず置いといて…、人工膝関節手術において、脛骨コンポーネントの後方傾斜角は膝関節の矢状面での安定性や可動域、大腿骨ロールバックなどに影響する重要な要素としての報告は挙がっています。
ロールバックについての記事はこちらです。
つまり脛骨後方傾斜角(PTS)は術後の経過に左右する重要な因子であると言えるわけですね!
ただ、この脛骨の後方傾斜角(PTS)ですが、至適なPTSの定義についてはいまだ曖昧な部分が多いのが現状のようです。
CR-TKAにおける報告においても、「PCLの緊張度を最適に保つための脛骨後方傾斜角度に関する一定の見解は得られていない」とされています。
上記を踏まえ、今回は後方傾斜角の至適角度を明らかにするというよりも後方傾斜角が術後の理学療法にどう関与する可能性があるかについてをまとめていきたいと思います。
1.脛骨後方傾斜角が術後理学療法にどう影響する可能性があるか?
脛骨後方傾斜角なのですが、TKA後の理学療法にどのように影響を及ぼす可能性があるのでしょうか?
結局のところ我々理学療法士が気になるところは「脛骨後方傾斜角が何度であればいい」という情報ではなく、「脛骨後方傾斜角がどうなったらどう影響するのか」が知りたいわけですよね。
脛骨後方傾斜角とTKA後の理学療法については大きく2つ関与が挙げられます。
①痛み
②可動域
この2点です。
①TKA後の痛み
膝関節の荷重下では、脛骨大腿関節へ圧縮応力が加わります。
これが脛骨の後方傾斜によって、圧縮応力が前方への剪断力を生み、結果として、大腿骨に比べて、脛骨が前方偏位しやすくなります。
つまり、脛骨後方傾斜角が大きくなればそれだけ脛骨の前方偏位が強くなるわけで、膝前方の痛みに繋がる可能性が出てくるわけですね。
基本的なTKAでは脛骨前方移動に関与するACL(前十字靭帯)は切除するわけですから、インプラントやインサートでの制御に依存する形になります。
もの(インプラントやインサート)の性能は大きく変わるわけではないため、脛骨後方傾斜角の変化により術後の痛みに差が出る可能性があることは十分に考えられますね。
術前後で極端に脛骨後方傾斜角に差がある場合や、術前後共に脛骨後方傾斜角が平均よりも大きすぎる場合は膝前面痛に対し脛骨後方傾斜角の影響を考慮する必要があるかもしれませんね。
ちなみにUKAの場合、ACLは残存するわけなので、靱帯性の影響(特に固有感覚受容器)を受ける可能性も視野に入れる必要があると思います。
そもそも、TKAでは靱帯の切除を行うことで固有感覚受容器からのフィードバックが減り深部感覚の低下を来すとされています。
これはこれで問題なのですが、UKAの場合は逆の現象が生じます。
手術の影響をフルに感じてしまう可能性もあるわけですね。UKAといえど手術によりアライメントの修正は多少入るわけですから、このアライメント変化による反応をどのように脳にフィードバックするかによって痛みや違和感の程度に差が出てくるのでは?とも思ってしまいます。
これは想像の話なので話半分で…。
ただ、上述した脛骨後方傾斜角の増大による脛骨前方偏位に関しては間違いなく痛みの要因になると考えます。
ただでさえ、脛骨前方偏位により前方組織にストレスがかかっているのに追加でACLにも伸長ストレスがかかってくる訳です。痛みとしては計上しなくても先程説明した固有感覚受容器への影響は大きくなると思われます。
防御性収縮⇒ROM制限
固有感覚受容器の異常⇒歩行時のknee action低下
などの問題を引き起こす可能性があると考えます。
余談ですが…
脛骨後方傾斜角に関してですが、前十字靭帯(ACL)損傷では、脛骨の前方偏位が大きくなります。
TKAとは関係ありませんが、男性よりも女性の方が脛骨後方傾斜が大きいため、荷重時における脛骨の前方剪断力を生じく、ACL損傷を生じやすいとも言われています。
言葉では意味がわからないので、図も入れながら…
手書きなので少しわかりにくいでしょうが、ご勘弁ください…。
脛骨後方傾斜角にが少ない場合は図で見る通り、ACLの負担はさほど強くない事がわかると思います。
逆に脛骨後方傾斜角が大きくなるとACLは否が応でも伸長位にもっていかれ常にストレスにさらされている状況にあることがわかると思います。
これは、ACLが手術により除去されたTKA後でも膝前面へのストレスが痛みとして挙がってくる可能性があるな…と思いませんか?
否定的な意見もあり明確なエビデンスがないようですが、脛骨後方傾斜角が大きくなればなるほど、荷重位では脛骨の前方へのストレスが大きくなることは予測がつきますよね。
②膝の屈曲ROMへの影響
膝の屈曲時はロールバック(roll back)といい、膝関節の屈曲に伴い、大腿骨側が脛骨上を後方へ移動することをいいます。
脛骨後方傾斜が強いということは、脛骨の前方偏位が生じ脛骨に対して大腿骨が後方に位置するため、脛骨後方傾斜が大腿骨のロールバックが生じた時と同じポジションとなることを助けるため、膝屈曲ROMは出やすいとされています。
ただし、PTS(脛骨後方傾斜角)が大きすぎるとPCL(後十字靱帯)の緊張にも影響すると言われており、限度があると思われます。
PTSの影響でPCLが常に緊張状態にあれば、ロールバックもクソも無くなる気がします…。(言葉悪いですね…笑)
イメージとしては、脛骨が下り坂のように傾斜しているため大腿骨も引っかかることなく動くことが出来るということですね。逆に傾斜がなさ過ぎれば、大腿骨が後方に転がり滑る際にぶつかる(インピンジメント)可能性が出てきますね。
ただ、先ほどの項でも説明しましたが、脛骨の前方偏位が膝前面の疼痛に関与するわけですから、脛骨後方傾斜角が大きく膝前面の痛みを拾ってしまう場合は、いくら曲がりやすかろうが「防御性収縮」という形でROM制限を来してしまう事もあるわけで、ケースバイケースと捉えます。
TKA後の場合も術後の脛骨後方傾斜角度から、脛骨後方傾斜角度が大きい場合には、脛骨前方偏位を相殺する目的でハムストリングの重点的なトレーニングを取り入れていくことで適切なロールバックが引き出される可能性もあるため、一つの手段として理解していくと良いかと思います。
2.まとめ
今回は脛骨後方傾斜角とTKA後の理学療法の関係性についてまとめていきました。
文献を調べる範囲内では脛骨後方傾斜角については一定の見解が得られていないという結果になります。
何度も言いますがこれはどちらかというとDr目線な話であって、我々理学療法士としては現状ある材料で最適な治療プランを立てていく必要があるため結果だけに目を向けず他の要素に重要な情報が隠されていることもあります。
今回は、脛骨後方傾斜角の如何に問わず、脛骨後方傾斜角自体が膝の機能にどのように影響するのか?、TKA後にはどのような影響が出る可能性があるのか?についてまとめていきました。
TKA後のリハビリはクリティカルパスの導入による個別性のある理学療法の減少や早期退院の流れを受けて時期に応じた適切な介入が出来ていないことも多々感じることがあります。
特に問題なく経過するケースは置いといて、術後から思ったような機能改善が得られないケースも少なくありません。
この時に要因の一つとして脛骨後方傾斜角の存在も頭に浮かんでくると治療の幅も広がってくると思います。
という事で本日はこの辺で終わりたいと思います。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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