どうも。
久しぶりの投稿です。
管理人のKnee-studyです。
今回は、膝OAや人工膝関節術後の筋力低下の一因になっている原因について考えていきたいと思います。
膝関節疾患に対する大腿四頭筋の筋力強化の重要性はリハビリを行う専門職の方なら知っていると思います。
ただ、なぜ重要なのか?そもそもなぜ筋力が低下してしまうのか?
ここを理解しないまま、情報の一片だけを拾い上げて患者指導を行っていることはないでしょうか?
2011年の発刊された「理学療法診療ガイドライン第 1 版」では、「変形性膝関節症に対する理学療法は漠然と下肢筋力増強運動、関節可動域運動、バランス運動が行われており、また、介入内容が標準化されておらず、科学的根拠に乏しく、有効性や費用対効果に関する研究が行われていない」ことが課題として明記されています。
このように”漠然としたリハビリ”を行っていかないようにするためにも、ある程度の知識の収集を行っていきたいですね。
ということで、今回は膝OA患者の大腿四頭筋筋力低下の理由やその原因の一つとして挙げられている関節原生筋抑制(AMI)についてまとめていきたいと思います。
1.膝OAと大腿四頭筋の関連性について
膝OAと大腿四頭筋の関連性はよく聞きますが、詳細は一体どういうことなのでしょうか?
以下にまとめていきます。
●膝OAの筋カトレーニングとしては、大腿四頭筋の筋力トレーニングが古くから行われおり、大腿四頭筋の筋力トレーニング効果的としている報告の理論的根拠としては、大腿四頭筋はショックアブソーバーであり、その大腿四頭筋が弱化するということがOA進行を早めるということになる
●動物実験において大腿四頭筋のトレーニングにより生じる関節圧迫力は関節軟骨の強さやサイズ、弾力性を増加させ、軟骨の退化を防ぐ
●大腿四頭筋の筋力トレーニングにより関節周囲の関節包や腱、靭帯の強度が増加し、関節障害を予防する
●膝伸展筋力の低下は膝OAのよる筋の機能不全によるものであり、大腿四頭筋の筋力低下は膝の痛み、能力障害の最初のリスクファクターであるとされている
●日本人の膝OAの危険因子は、肥満、膝の外傷、肉体労働であり、女性と男性間に性差は存在せず、危険因子は同じであった
●膝OAの発症に関与する危険因子として、遺伝、年齢、女性、ヘバーデン結節と手指のOA、肥満。高い骨密度、外傷、半月板損傷、鏡視下半月板部分切除術後、靭帯損傷、靭帯再建術後、内反・外反弛緩性、職業、スポーツ経験、大腿四頭筋の筋力低下が報告されていた
●進行に関与する危険因子として、肥満、低い骨密度、ビタミンCとDの低摂取、インドメタシンの使用、関節不安定性、内反・外反のマルアライメント、軟骨石灰沈着症、カルシウム・ピロリン酸沈着症、膝関節水症、熱感が報告されていた
●男女ともに大腿四頭筋筋力の低下が膝痛と有意に相関すると報告している
※一方で握力との関連はみられなかった
【参考・引用文献】
Muraki S, et al. BMC Musculoskelet Disord. 2015;16:305.
市橋則明ら 変形性膝関節症に対する筋力トレーニング再考 理学療法学 第8巻第3号 2001年
理学療法診療ガイドライン 第一版ダイジェス版 日本理学療法士協会
2.膝OAの大腿四頭筋筋力低下の原因は?
上記では、膝OAと大腿四頭筋の関連性について述べていきました。
ここでは、実際に大腿四頭筋の筋力低下の原因の一つについて紹介していきます。
内容としては、今回の記事のメインとなる部分になります。
膝OA患者の大腿四頭筋の筋力低下は、随意的な筋活性化が低下していることも原因であるとされています。
加えて、関節原生筋抑制(以下、AMI)という機序により大腿四頭筋の完全な筋活性化を妨げ、潜在的に筋量を維持するのに必要な刺激を弱めるため、その結果として膝OA患者の大腿四頭筋は筋委縮が起こるとされています。
※随意的な筋活性化の不全は、最大限の自発的努力にも関わらず、筋のすべての利用可能な力を生成することが出来ない状態となります。
3.関節原生筋抑制(arthrogenic muscle inhabitation:AMI)とは?
先程の項で述べた”AMI”とは一体何のことでしょうか?
AMIとは、関節原生筋抑制(arthrogenic muscle inhabitation:AMI)と呼ばれるもので、傷ついている関節周辺の正常な筋に神経抑制が起こっている状態であり、ある筋が最大の随意的な筋収縮を行うときに、その筋群に存在するすべての筋線維束(筋細胞)を活性化させることが出来ない状態を言います。
また、AMIは筋力低下のみではなく筋委縮の一因ともなり、重度の場合では、効果的な筋機能改善の妨げとなる可能性も出てきます。
上記の内容をまとめると、
「関節原生筋抑制」と呼ばれる反応は、筋肉を動かす神経の反応が抑制されることで、筋力低下が生じるということですね。
筋肉があってもそれを動かす神経系が抑制されれば、筋肉の必要性が無くなってしまいますね。
結果的に筋力低下にも繋がってくるというわけですね。
この状態でトレーニングをしても膝関節自体が不安定なため悪化してしまうリスクがでてくることが容易に想像できますね。
膝OAや高齢により生じる大腿四頭筋の筋力低下の原因として、このAMIが関連していると報告されており、この原因として、滑膜の炎症による関節水腫、滑膜肥厚、疼痛などが挙げられています。
※上記問題により、関節内圧が上昇し関節周囲の感覚神経終末を介して、筋に対して反射性抑制が生じている状態であるとされている
AMIに関係していると考えらえる神経経路の一つとしてγループが挙げられています。
γループとは、筋紡錘に神経分布しているγ運動ニューロンの活動により、Ⅰa求心性線維を経由して興奮性インパルスを同側のα運動ニューロンプールに伝達することで筋活動を調整している脊髄反射の回路です。
AMIでは、脊髄あるいはより高位の中枢神経系により脊髄前角でのα運動ニューロンプールの発火が抑えられ、大腿四頭筋の活動が抑制され、その結果として筋力低下が生じ、加えて大腿四頭筋の筋活性化低下に続発する筋委縮が更なる筋力低下に繋がるとされています。
また、膝関節の疼痛も筋機能に影響を及ぼします。
痛みにより筋の侵害受容求心性神経系の刺激がγ運動ニューロンを興奮させ、Ⅰa群筋紡錘およびⅡ群筋紡錘求心性神経の感受性を増大させます。
この、Ⅰa群筋紡錘求心性神経の活動促進により、筋のこわばり(stiffness)が増加することとなります。
※これにより代謝産物が増加し、悪循環の結果さらに筋のこわばりが増す。
そしてⅡ群筋紡錘求心性神経の活動増加はγ系に反映され、筋のこわばりの亢進を持続させます。
また、侵害刺激により脊髄グループⅡ介在ニューロンの活動が変化し、伸筋活動抑制と屈筋活動亢進を起こす屈筋反射が生じ、結果的に膝OA患者ではハムストリングスの筋緊張亢進により大腿四頭筋の筋力低下が起こっている可能性が示唆されています。
AMIが生じることで筋力低下や筋委縮が生じる可能性があることは理解できましたが、神経経路の話になると中々…理解しづらくなりますね…。
この辺の話は改めてまとめていきたいと思います。
この話で面白いのは、筋のこわばり(stiffness)とも関連してくるという事です!
ここの話が理解できると、TKA術後にも生じるstiff knee gaitの改善にも繋がってくるというわけですね。
これは頑張って理解していきたいところですね。
関連する以前の記事を紹介しておきます。
4.まとめ
今回は、膝OA患者に生じる大腿四頭筋の筋力低下について、AMIとの関連をメインに記事をまとめていきました。
膝OA患者に限らずですが、大腿四頭筋の筋力低下は様々な問題を引き起こします。
それゆえに、”大腿四頭筋の筋力強化”だけにフォーカスされ、その背景を考えることを忘れてしまっているように感じます。
今回紹介したAMIが生じている場合は、単に大腿四頭筋の筋力強化を行うだけでなく、生理学的な視点を持って介入する必要があると思います。
という事で、本日はこの辺で終わります。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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