どうも。
管理人のKnee-studyです。
皆さんは膝OAや人工膝関節術後のリハビリは何を基準に行っているでしょうか?
●勉強会で得た情報をもとにリハビリを行う
●ガイドラインを見てリハビリを行う
●その都度、文献をみてリハビリを行う
●1つ1つ評価を行い、問題ある部分に対してリハビリを行う
●なんとなくリハビリを行う
などなど…セラピストによって考え方やアプローチの仕方は大きく異なるものですよね。
どの疾患に対してもある程度エビデンスは出てきており、その情報をもとに治療プランを立てるセラピストは多いのではないでしょうか?
実際に、
膝OA・TKA後のリハビリについてもガイドラインが作成され公開されています。
治療アプローチのベースを作っていくうえではガイドラインを使用しない手はないですよね?
そう思って私自身もガイドラインを活用し、患者指導や予後予測に役立てていきました。
今回は、このガイドラインについて個人的な振り返りと膝OAやTKA後のリハビリについての課題について考えていきたいと思います。
この記事を作りながら、今自分自身が何をしなければならないのか?どういう視点で患者を捉えていくべきなのか?などを整理していきたいと思います。
- 1.そもそもガイドラインってなに?
- 2.これまでの膝OA・TKA後のガイドライン
- 近年報告されたガイドラインのまとめ
- 1.National Institute for Health and Care Excellence 2022(NICE 2022)
- 2.American Academy of Orthopaedic Surgeons 2021(AAOS 2021)
- 3.Osteoarthritis Research Society International 2019(OARSI 2019)
- 4.The Department of Veterans Affairs and Department of Defense Evidence-Based Practice Work Group 2020 (VA/DoDEBPWG 2020)
- 5.American College of Rheumatology and the Arthritis Foundation 2019(ACR/AF 2019)
- まとめ
- 最後に
1.そもそもガイドラインってなに?
診療ガイドラインとは、エビデンスなどに基づいて、最良と考えられる検査や治療法などを提示する文書のことを言う。
診療ガイドラインとは、「健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書」とされている。
診療ガイドラインは、患者と医療者を支援する目的で作成されており、意思決定の際に、判断材料の1つとして利用されることがあります。
つまり、診療ガイドラインは、患者と医療者が、よりよい解決策を見出すために一緒に診療方針を考えていくための「出発点」=「基準」になるわけですね。
臨床の場では、主に医療者がガイドラインを活用して患者に適切な医療を提供しているような状態になりますね。
「益と害のバランス」という文言が思っていたより重要なワードである気がします。
参考資料:(公財)日本医療機能評価機構.Mindsガイドラインライブラリ.
2.これまでの膝OA・TKA後のガイドライン
診療ガイドラインの意味合いは理解できたところで、これまでの膝OA・TKA後のガイドラインを簡単に振り返ってみましょう。
2011年 変形性膝関節症のガイドライン
診療ガイドライン第一版になりますが、「はじめに」の項で以下のような言葉が並べられています。
日本において膝OAは、理学療法の対象疾患である。
しかし保存療法を受ける膝OA患者の多くは理学療法士による治療を受けるよりも、物理療法や医師からパンフレットを渡され膝関節伸展筋力増強運動を指導されているにとどまっているのが現状であろう。
そして、理学療法士による理学療法を受けたとしても、漠然とした下肢筋力増強運動、関節可動域運動、バランス運動が行われているにすぎない。
また、理学療法介入は標準化されるに至っておらず、科学的根拠に乏しく、有効性に関する比較検討や費用効果に関する研究は行われていない等の問題がある。
私が理学療法士として働き始めたあたりの時期に公開されています。
書かれている内容は「確かに…」と思う部分がありますね…。
治療アプローチに意味を持たせることは重要ではありますが、ふとした際に漫然とした訓練を行ってしまっていることがあるように思います。
ガイドラインの具体的な内容については以下の引用資料から飛んで確認できます。
新しいガイドラインが出ているため、「こんな感じなのか~」くらいに読んでみて頂ければと思います。
2021年 膝関節ガイドライン
10年後の2021年に「膝関節機能障害理学療法ガイドライン」が公開されています。
こちらもWeb版で参照することが出来ます。
こちらから飛んで読むことが出来ます。⇒⇒⇒理学療法ガイドライン第2版
冒頭の文を引用します。
この文章を読むだけで膝OA患者の割合やそれに伴う弊害がわかるかと思います。
ここから一定数が人工膝関節置換術を行うことになるわけですね。
【臨床症状】
変形性膝関節症とは、膝関節の関節軟骨と軟骨下骨の進行性退行変性が慢性的に生じる状態を言う。
主な症状は、身体運動時の膝関節疼痛に併発する起立・歩行障害と膝関節変形の増加である。
変形性膝関節症では90%が肥満、30%が抑うつ状態、15%が糖尿病を伴っており、これらは変形性膝関節症患者の生活の質を低下させる原因となっている。
全成人の24%が変形性膝関節症に罹患する。60歳以上では9.6%の男性、18%の女性が変形性膝関節症の症状を有する。
65歳以上では加齢と共に発症率が増加し、65歳以上の人口の80%に達する。
※変形性膝関節症に対する対策は医療費の節減に繋がるとされている
【危険因子】
加齢、性別(女性)、エストロゲン減少、骨密度低下、肥満、BMI増加、体重変化、大腿四頭筋筋力低下、半月板・靱帯の損傷、重労働、スポーツ活動、抑うつ状態が挙げられている。
引用元:理学療法ガイドライン第2版
以下に人工膝関節置換術後の理学療法についてのガイドラインを一部抜粋してまとめていきます。
主な問いは2点で、それぞれに対するエビデンスと益と害のバランス、明日への提言という形で紹介されています。
●TKA後のROM制限に対する理学療法
●TKA後の筋力低下に対する理学療法(筋力トレーニング)
結果的には、理学療法を行う事を推奨する形でまとまっていますが、何が効果的なのか?といった理学療法の中身を問う内容となっており捉え方によっては危機感を感じる結果にもなっているように感じます…
Q:膝関節可動域低下がある人工膝関節全置換術後の患者に対してどのような理学療法が有効か?
【回答】
【まとめ】
●理学療法を行うことでの効果は報告されているが、どのような理学療法が有効かについて調査した報告は十分に認識されていない
確かに、理学療法を行った方がいいと判断していても、何をどのように進めていくかは明確になっておらず、実際の臨床現場でもセラピストによって異なっているように思います
実際にROM制限がある場合の問題点も患者によって異なることもあり、治療アプローチも多様になっているように思われます
2011年のガイドラインでは「他動運動よりも日常生活活動に着目した機能運動に積極的に関わるほうが好ましい」とされています
●実際の理学療法では、筋力強化運動、関節可動域運動、有酸素運動、物理療法などの複合的な介入が行われるため、どの介入の組み合わせが適切であるかについて明確に検討されたものは見当たらない
どの治療アプローチがいいか?だけでなく、どの治療アプローチの組み合わせが最適か?についても報告が少ない状況にあるようです
極端に治療アプローチを限定するという方法は中々取り組みにくいですが、組み合わせを決めて(A,Bの治療アプローチ群とA,Cの治療アプローチ群など)、それぞれを比較するような研究はやりやすいように思います
●膝関節可動域低下があるTKA後の患者に対する超音波治療法、神経筋電気刺激を含む電気刺激療法、温泉療法の有効性に関しては、明確な結論となる報告はほとんどない
超音波治療に関しては、セメントの有無やスクリューの弛みが生じるリスクなどがあると言われているため、今後も明確なエビデンスが出てくるのか…(炎症や創治癒などには有効でしょうが…)
電気治療に関してはEMSやTENSの報告があがっていますが、筋力強化や除痛目的での報告が多いように思います
【結論】
●害の報告がないことから、益が害を上回ると考える
「明確な効果は示されていないが、悪化させることもないため理学療法を行う事を勧める」と結論付けられているように感じますね…
●これらを踏まえて、膝関節可動域低下があるTKA後の患者に対して、理学療法をその他と比較した研究(質の高い大規模研究)が必要となる
●膝関節可動域低下があるTKA後の患者に対して、どのような内容の理学療法が有効であり、どの組み合わせが適切であるかを検討すべき
対個人への効果だけでなく、それが多くのTKA患者にも有効であるか?を各セラピストがデータ化していかなければならないと思う次第ですね…
Q:運動機能低下がある人工膝関節全置換術後の患者に対して、積極的な筋力強化は有効か
【回答】
運動機能低下がある人工膝関節全置換術後の患者に対して、漸増膝伸展筋力強化運動を実施することを提案する
【まとめ】
●TKA後の大腿四頭筋筋力低下は術後の身体機能に影響を及ぼすと報告されており、術後の筋力強化は間違いなく重要となる
●理学療法を行う中でも、高負荷での筋力強化と通常介入を行う比較が行われているが、いずれも両群間に有意な差がなかった
筋力強化は行う必要があっても、限定的に強化を行っても、通常の介入と比較して
有意な差は報告されていないという結果となっています
大腿四頭筋筋力低下が術後の課題になっている現状で、理学療法士が筋力強化を行うことで明確な効果が得られるというエビデンスを打ち出せると必要性は大きく高まってくることになりますね…
【結論】
●漸増膝伸展筋力強化の方法に着目して、この点を比較する研究は少ない
●早期より積極的な筋力強化運動を行う方法と一般的な筋力強化運動には長期的効果に差はない
●害についての報告がないことから、下肢筋力を早期に回復させる場合においては、益が害を上回ると考える
●今後はどのような内容の理学療法が有効であり、どのような評価方法が適切であるかを検討すべきである
有効な理学療法を検討していく必要がありますが、”評価方法”についても正確に行っていかなければ、正確な結果は提示できません。
評価方法の統一や整合性(誰が行っても同じ結果になる)を考えることも重要になってきますね…
近年報告されたガイドラインのまとめ
ここからは2023年に海外のガイドラインをまとめた文献が公開されています。
以下に一部を抜粋して紹介します。
※ただしこの文献で紹介されたガイドラインの内容は膝OAに限る内容となっています。
【引用文献】
乙戸 崇寛ら 5つの変形性膝関節症診療ガイドラインによる理学療法エビデンス 徒手理学療法 23(1):75–80, 2023
1.National Institute for Health and Care Excellence 2022(NICE 2022)
全人的アプローチを基盤とするが、患者教育と自己管理、温熱(または寒冷)、運動、徒手療法、減量を実施することは、中心的な治療として強く推奨している。
経皮的電気刺激療法(TENS)、および装具、杖、足底板については補助的治療として実施することを検討すべきであるとされ、鍼治療については実施することを推奨していない。
変形性膝関節症の機能制限、および疼痛が長期化する場合は、人工膝関節置換術の実施を検討すべきであることが記載されている。
2.American Academy of Orthopaedic Surgeons 2021(AAOS 2021)
患者教育と自己管理は、疼痛および機能障害に対して有効であり、運動を実施することは、監視と非監視の違い、また陸上と水中の違いにかかわらず強く推奨している。
徒手療法については限定的に推奨している。
神経筋トレーニング(バランス、敏捷性、協調性練習などを含む)を実施することは中等度の推奨とされている。
減量についても中等度の推奨とされている。
TENS の使用については限定的に推奨している。
装具の使用については強く推奨しているが、これは膝装具の使用であり、外側ウェッジについては使用しないことを強く推奨している。
杖を使用することは疼痛と機能障害に有効であり中等度の推奨とされている。
鍼治療については弱く推奨している。
温熱(または寒冷)療法、および適切な履物(靴)に関する記載はなかった。
3.Osteoarthritis Research Society International 2019(OARSI 2019)
患者教育は中心的治療として強く推奨しており、自己管理は中等度の推奨とされている。
運動は中心的治療として実施することを強く推奨しており、その種類は筋力強化、バランス練習、太極拳、ヨガとしている。
水中運動の実施については弱く推奨しているが、フレイル(虚弱)者への水中運動の実施は推奨しないことが明記されている。
減量については単独項目ではなく、運動を併用した食事療法による体重管理を強く推奨している。
杖使用による歩行、および行動療法の実施は弱く推奨している。
一方、膝装具は使用しないことを中等度推奨している。
鍼治療については推奨せず、温熱(または寒冷)療法、TENS、適切な履物(靴)に関する記載はなかった。
4.The Department of Veterans Affairs and Department of Defense Evidence-Based Practice Work Group 2020 (VA/DoDEBPWG 2020)
毎日の活動は関節軟骨の機能を長期的に維持するため、自己管理の重要性が指摘されており、自己管理に含まれる運動の実施、減量、適切な装具の利用は弱く推奨している。
運動を実施する場合、費用がかからない環境づくりが運動の継続を支援するために必要であることが記載されている。
減量については単独の食事療法よりも運動と食事療法を組み合わせる方が効果的であり、弱く推奨している。
装具療法については軟性、非伸縮性であること、外反アライメントであることを条件に弱く推奨しているが、装具の違いによる効果については言及していない。
このガイドラインでは、理学療法について「徒手理学療法と運動処方を組み合わせて提供する理学療法士によるアプローチ」と定義されており、徒手理学療法には「軟部組織モビリゼーション、関節モビリゼーション(関節マニピュレーション)を含む」としている。
また、理学療法については「疼痛に対する患者教育、生活指導、行動修正に対する介入など、多様かつ包括的なアプローチ」としている。
一方、TENS、鍼治療、マッサージ、瞑想、太極拳、ヨガについては推奨に至る根拠を示していない。
5.American College of Rheumatology and the Arthritis Foundation 2019(ACR/AF 2019)
教育と自己管理、運動の実施、減量、膝装具、杖の使用は強く推奨している。
太極拳は強く推奨しているが、ヨガは弱く推奨している。
温熱療法(または寒冷)、鍼治療、バランス練習、行動療法も弱く推奨している。
一方、TENSは使用しないことを強く推奨し、足底板(インソール)と徒手療法、マッサージは使用しないことを弱く推奨している。
まとめ
結論としてこの文献でも、「変形性膝関節症の臨床研究課題として対象者特性(80 歳以上を含む年齢別、性別、重症度別、虚弱の有無など)の違いによる教育、自己管理、運動の有効性について比較することが必要であると考える」とされています。
最後に
今回はガイドラインについて2011年から振りかえってまとめていきました。
ガイドラインはあくまで適切な診療の参考にするためのものでありますが、それがすべてと勘違いしてしまう事もあると思います。
2021年のガイドラインでは、人工膝関節置換術後のリハビリに至ってですが「益と害のバランス」のところで明確に”益ははっきりしていないが害がないため推奨する”と明記されています。
個人レベルでの頑張りには限界がありますが、今後の理学療法の発展を考える上ではデータの蓄積と質の高い研究は考えていかなければならないと思う次第ですね…。
ちなみに、2023年5月に変形性膝関節症診療ガイドラインが発行されています。
これは日本整形外科学会が監修されており、理学療法についての記載は多くはありませんが、興味があればご購入されてみてはいかがでしょうか?
変形性膝関節症診療ガイドライン2023 [ 日本整形外科学会 ]
それでは本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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