どうも。
管理人のKnee-studyです。
前回は”PS型のTKA”について触れていきました。
TKAの機種は大きく分けて2種類存在します。
PS型のTKAとCR型のTKAの2種類ですね。
その他にもCS型やBCR型、BCS型などの機種も存在しますが、大半を占めているのはPS型とCR型になります。
今回は前回紹介したPS型とよく比較されるCR型について触れていきたいと思います。
CR型は、後十字靭帯(PCL)を温存する手術法であり、TKA術後でも、正常膝の関節運動に類似した動きを再現することにフォーカスしてデザインされています。
このCR型のTKAの場合、「後十字靭帯(PCL)が温存されている」ということがキーワードになります。
以下にCR型のTKAについて少し掘り下げてまとめていきたいと思います。
1.CR型のTKAについて
CR型のTKAですが、正式名称は”Cruciate – Retaining型”と呼ばれ、頭文字をとってCR型と言います。
意味としては、略すと「十字を残す型のTKA」ということになります。
・Cruciate=十字
・Retaining=保存・保持・保つ
ですので「十字を保存・保つ」という意味になります。
とは言ってもCR型はACLは切除します。温存するのはPCLです。
そのため、本当に正式な名称は”Posterior Cruciate Retaining(後十字靭帯温存型)”と呼びます。
つまりCR型は、PS型と違って、後十字靱帯(PCL)によって膝関節の動きをコントロールする機種であるということがわかります。
CR型のTKAの特徴
CR型のTKAの場合、大きな特徴としては「後十字靱帯(PCL)が温存されている」ことが挙げられます。
本来のTKAでは、関節面を入れ替えて(人工関節を置換)、人工的に膝関節を制御するイメージですが、このCR型のTKAでは靱帯を一部残して、膝関節の制動や関節運動をより生体に近い形で再現しようとしています。
後十字靱帯(PCL)を温存するため、PS型ではあったインサート側のポストは存在しません。
代わりに、インプラント側の後方部の内外の接合部がなく(PS型の場合はポストカム機構の再現のために内外が接合されている)、
後十字靭帯(PCL)に干渉しないような構造となっています。
CR型のTKAでは、後十字靱帯(PCL)の機能が大きく影響しており、後十字靱帯(PCL)の機能低下(変性や緊張の程度etc…)が生じている場合は術後は思ったよりも膝の機能向上が望めない可能性が出てきます。
簡単にいうと、CR型のTKAは後十字靭帯(PCL)次第であるということになります。
当然、このCR型のTKAでも仮に後十字靭帯(PCL)の機能が低下していても、インサートで代償できることもあります。
※実際に後十字靭帯(PCL)が不完全な状態用のインサートも製品として存在します
図:CR型のTKAについて
後十字靱帯がどのようにロールバック機構に関与しているかについてはこちらの記事をご覧ください。
CR型のTKAのメリット
CR型のTKAのメリットとしては、やはり「自己の組織を温存させて正常に近い関節運動を再現する」ことが挙げられます。
PS型と違い、生体での制御が多くなるため、術後も自分の膝のように動かすことが可能になるとされています。
また、後十字靭帯(PCL)により膝の後方安定化が得られるため、PS型よりも安定性が高いとされています。
あと、後述しますがPS型に比べCR型の方が術後のバランス能力の改善度に差があり、CR型の方が有意に術後安定性が得られるとも言われています。
これは、靭帯の温存などが影響しているものと思われます。(固有感覚受容器の問題)
TKA対象者は若年者よりも高齢者に多いことから、術後の転倒を考慮するとCR型の方がメリットになり得ると思われます。
CR型のTKAのデメリット
CR型のデメリットは以下の通りです。
①後十字靭帯(PCL)の変性によりロールバック機構が再現されない可能性がある
②後十字靭帯(PCL)の過緊張により膝の可動域制限が生じる可能性がある
①後十字靭帯(PCL)の変性によりロールバック機構が再現されない
CR型のTKAの場合、後十字靭帯(PCL)を温存し、この後十字靭帯(PCL)の働きによって膝屈曲時のロールバック機構を再現しています。
図:膝関節のロールバック機構について
通常の膝関節の屈曲運動を人工関節を置換した場合も再現することを目的に後十字靭帯(PCL)を温存させます。
しかし、変形性膝関節症の進行具合によって靭帯の変性も当然進みます。
つまり変形性膝関節症の膝関節は靭帯の機能も低下している可能性があるということです。
このように、CR型のTKAを施行予定でも、いざ膝を開いてみると後十字靱帯(PCL)の変性が進んでおり、後十字靱帯(PCL)としての機能を果たせないということもあるわけです。
万が一、後十字靱帯(PCL)の変性がある状況でCR型のTKAを置換した場合、術後に膝関節のロールバックが上手く再現されず膝屈曲制限が生じる可能性が出てきます。
図:ロールバック機構が起きない場合、膝関節後方インピンジメントが生じる可能性がある
②後十字靭帯(PCL)の過緊張により膝の可動域制限が生じる
PS型のTKAに比べ、CR型のTKAでは温存する組織は多くなります。
両者とも固有感覚が豊富であるといわれてている前十字靭帯(ACL)は切除しますが、CR型のTKAの場合は後十字靱帯(PCL)を温存します。
後十字靱帯(PCL)は前十字靭帯(ACL)に比べ、固有感覚受容器は少ないといわれているようですが、それでも膝の動きに伴って少なからず反応すると思われます。
術後は膝の固有感覚受容器の低下をきたすといわれており、正常の感覚機能を失われるということになります。
つまり異常感覚などエラーが生じやすくなるということです。
よくTKA術後は、炎症症状が落ち着いているにもかかわらず、「こわばり感」が残存し可動域制限をきたすことがあります。
こういった場合は、後十字靱帯(PCL)をはじめとする膝の制動に関わる組織の過緊張が影響している可能性があります。
CR型のTKAの適応とは?
適応に関しては、主に「後十字靱帯(PCL)の機能が保たれている場合」が適応となります。
このことから、PS型よりは適応の範囲は狭くなることがわかります。
基本的には、使用機種に関してはDrの意向に左右される印象です。
施設によっては、当初はCR型の予定であったが、術中に後十字靭帯(PCL)の問題があればPS型に切り替えるといったこともあるようです。
当院では、CR型のTKAがメインであり、術中に後十字靭帯(PCL)に問題があると判断された場合は、PCLが不完全で前後方向および回旋安定性が必要な場合に有効なインサートを入れることで代用しているようです。
2.PS型のTKAよりもCR型のTKAを推奨する文献
以下に2つほどCR型のTKAを推奨する文献を紹介します。
CR型TKAとPS型TKAの短期的成績の比較を行った研究
人工膝関節置換術における後十字靭帯温存が退院時機能へ与える影響~CR type と PS type の短期的成績比較~
この研究ではPS型のTKAとCR型のTKAの術前から退院時の機能の変化について比較を行っています。
●症例数は48例で内訳はPS型34例、CR型14例
●評価項目は、在院日数・年齢・BMI・退院時屈曲伸展ROM・術側筋力体重比(膝関節屈曲、伸展)・10m 最大歩行速度・術前と退院時のBBSの7項目
●結果として、CR型の方がPS型に比べて、退院時に膝関節伸展制限の改善を認め、また筋力(膝関節屈曲・伸展共に)もCR型の方が有意に改善を示した
●バランス機能に関しては、術前はCR型・PS型で有意な差は認めなかったが、退院時はCR型の方が有意に改善を示しており、BBSのカットオフ値を超える結果となった(PS型がBBSのカットオフ値を下回る結果となった)
●CR型とPS型の比較において、膝の屈曲可動域や歩行速度に差はない反面、バランス機能はCR型の方が有意に改善しており、PS型は高い転倒リスクが伏在した状態でのADL獲得となっていることが示唆された
上記の研究結果的には、CR型の方が術後の機能改善は良好であることが示唆されています。
ただし、PS型とCR型の対象となった症例の背景(術前の関節変形や不安定性など)が設定されておらず、PS型の方が重症度が高かった可能性があり、その事がバランス機能の改善度の違いを引き起こした可能性もあると指摘しています。
CR型TKAのロールバック機構についての研究
この研究はCR型とPS型を比較した研究ではありませんが、CR型の特徴である後十字靱帯(PCL)で再現されるロールバック機構について検討されているものになるため、ここで紹介します。
この研究では、CR型のTKA後における膝関節の運動様式を透視下に観察し、大腿骨コンポーネントのrollbackと術後可動域との関係を検討しています。
●対象はTKA術後の37例(43膝)
●使用機種は”NexGenCR型”
●方法は、まず患者を透視下撮影台にのせて患肢が上になるように側臥位にさせて、徒手的に最大伸展から最大屈曲まで他動運動させ、「最大伸展時」と「最大屈曲時」の側面線をX線撮影した。この2枚のX線側面像より、大腿骨コンポーネントのroll backと大腿骨に対する脛骨の内旋の有無を調べ、術後可動域との関係を検討した。
●結果は、以下の3パターンに分かれた
①roll backし、かつ内旋したパターン(28膝65.1%)
②roll backのみしたパターン(12膝27.9%)
③roll backも内旋もしなかったパターン(3膝7.0%)
※術前の膝関節屈曲角度は3群間とも平均115°前後で差はなかった
●術後の膝関節屈曲角度は3つのパターンで差が生じた
①roll backし、かつ内旋したパターン⇒平均121°
②roll backのみしたパターン⇒平均112.5°
③roll backも内旋もしなかったパターン⇒平均100°
※より生理的な動きをした群の方が良好な可動域を確保できていた
●後十字靱帯(PCL)の機能としては、「膝関節の後方安定化」と「膝関節屈曲時のロールバック機構や回旋の軸としての機能」の2つが挙げられる
●後十字靱帯(PCL)の存在により膝関節の後方安定化はある程度得られるものの、ロールバック機構や回旋誘導のための機能としては、後十字靱帯(PCL)の機能不全(変性など・・・)が存在すると上手く機能しない可能性が示唆された
今回の研究から、CR型のTKAでも脛骨の内旋の有無によって同じ機種を使用しても膝の屈曲可動域に差が生じてしまう事がわかりました。
ちなみに、この研究で使用された機種はNexGenCR型であり、2001年に報告されたものです。
現在ではこのNexGenCR型の機種も改良されており、内、外顆の曲率半径が異なるフェモラルコンポーネントの構造となっており、屈曲時における脛骨大腿骨関節間の生体に近い非対称性のロールバックを再現するような作りになっています。
※近年のTKAの機種は、メディアルピボットモーションの原理を再現した構造になっており、内側を軸に膝屈曲運動が生じるように作られています。
メディアルピボットモーションについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
このことにより、膝屈曲時に内旋を伴う運動が生じやすくなり、この研究で報告された内旋が生じなかった例は軽減しているものと思われます。
結論としては、「後十字靱帯(PCL)の機能次第ですよ」と言われているように感じましたが、
術後の傾向として、膝屈曲時に脛骨の内旋が出ているのか?はしっかりチェックすべきであると感じました。
術後の膝屈曲運動時に脛骨の内旋誘導を軽くいれながら可動域訓練を行うことで改善が得られる可能性もあるということですね。
3.まとめ
今回は、CR型のTKAについて少し掘り下げてまとめていきました。
前回のPS型のTKAと比較していくような形でまとめましたが、やはりどちらがおススメであるという結論には至りません。
患者さんの状態に合わせて適応機種が選ばれるものであると感じました。
そして、なによりTKA機種そのものの改良のすごさを改めて感じますよね。
少し前の文献を読んでいても、今現在のTKAの動きとは異なってきているわけなので、医療は日進月歩であるという意味を強く感じた次第です。
と、まぁそれに伴って、我々セラピストも治療技術ばかりに気を取られ過ぎず知識のアップデートにも目を向ける必要があると思います。
手術が絡むと、どうしても術式などリスク面を考慮する必要があります。
TKAの場合は機種によってコンセプトが大きく異なるわけなので、より一層機種への理解は必要になると思います。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!
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