どうも。管理人のKnee-studyです。
今回は、人工膝関節術後のリスクについてです。
人工膝関節術後早期の重篤な合併症として、深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)が挙げられています。
このDVTですが、一見、術後の機能に影響しないように感じますが、術後のROM改善と関係するといった報告も挙がっておりPTとしても予防的観点を持ってリハビリを行っていく必要があると思います。
ということで、今回は人工膝関節術後のDVTについてまとめていきたいと思います。
1.深部静脈血栓症(DVT)とは?
四肢の静脈には筋膜より浅い”表在静脈”と深い”深部静脈”の2種類が存在しており、深部静脈において何等かの原因で血栓が生じることが深部静脈血栓症の病態となります。
そのままですが、深い部分にある静脈に血栓が生じることで深部静脈血栓症と言われているわけですね。
あまり、用語の意味を理解せずに判断していることもあるため、改めて復習的な感じですね。
深部静脈血栓症の原因となるVirchowの3徴候
静脈血栓の形成には、①静脈の内皮障害、②血液の凝固亢進、③静脈の血流停滞が関与しており、これらはVirchowの3徴候(ウィルヒョウの三徴候)として広く知られています。
手術侵襲のため血液凝後能の亢進が起こり、特に下肢の手術では、直接的または間接的に静脈の内皮への損傷が加わります。
また、術中・術後は血管が拡張し安静となることが多く、血液のうっ滞が起こります。
つまり、手術にはVirchowの3徴候すべてが関与しているということになりますね。※TKA 後の DVT 発生要因は、Virchowの三徴(血管内皮障害、静脈還流の停滞、血液凝固能の亢進)が挙げられ、これらが複雑に絡み合っている
DVTよりもPTEを予防することが大事
【肺血栓塞栓症(pulmonary thrombolism:PTE)】
「肺塞栓症」とは、心臓から肺に血液を送り込むための肺動脈が、塞栓子(そくせんし)という物質により詰まってしまう病気
塞栓子になる物質はいろいろあるが、そのうちの大半が血栓によるもの
この、血栓が原因の肺塞栓症のことを「肺血栓塞栓症」と呼ぶ
人工膝関節術後のDVT予防を行うという事は、DVTに起因する肺血栓塞栓症を予防することにあります。
PTEは死に至ることもあるため、事前に予防することが重要になってきます。
ちなみに下腿部で生じる血栓では中枢側に進展しやすく、進展した血栓は浮遊(フリーフロート)血栓になりやすく、無症候性にDVTを形成し、膝の屈曲などでフリーフロート血栓が静脈壁から剥がれてPTEを発症することがあるようです。
つまりTKA・UKA術後は血栓のリスクが高く、PTEまで発展する可能性があることを理解しておく必要があるということですね。
2.人工膝関節術後とDVTの関連性について
以下の文書はTKA・UKA術後の血栓のリスクを記しています。
人工関節置換術(THAおよびTKA)
症候性VTEの発症リスクが高い術式であり、理学的予防法あるいは薬物的予防法のいずれかを実施するか、併用することを推奨する引用元:伊藤正明,池田正孝,他:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017 年改訂版)
このようにTKA・UKA術後の深部静脈血栓症は起こる可能性が高いと認識する必要があります。
では、この深部静脈血栓症が起こった際に、どのように術後経過に影響してくるのか?疑問に思いますよね?
以下に紹介する内容はTKA・UKA術後と深部静脈血栓症の関係性についてになります。
山田らの報告では、DVTの発生が人工膝関節術後の可動域制限に及ぼす影響として検討しています。DVT発生群と非発生群の2群間の比較で、手術前または手術後 3 か月の両者で2群間に有意差はなかったと報告しています。
しかし、DVT発生群において非発生群と比較して、術後1週目での膝関節自動屈曲角度が有意に低く、自動屈曲90°を獲得する日数についてもDVT発生群の方が有意に長くなったと報告しています
結論として、DVTがTKA後の早期屈曲の復帰を遅らせる可能性があることが示されました。
参考文献:深部静脈血栓症の発生が人工膝関節の術後関節可動域に及ぼす影響
このことから、DVTの発症は少なからず人工膝関節術後の経過に影響していると推察されるため、術後のDVTないしPTEの発症には十分注意する必要があることがわかりましたね!
3.DVTの症状は?
臨床症状として以下の項目が挙げられます。
●術側の疼痛、浮腫
●片側性かつ急速発症した腫脹
●表在静脈の怒張
●立位や下垂位で著名となり、挙上位より速やかに改善する色調変化
以上のような自覚症状が認められます。
実際にTKA術後のリハビリで介入する際によく見る光景な気がしますが、色調変化なんかは明らかに異常を示すサインであるため、見逃さないようにしておきたいですね。
単純に「循環が悪いのかな~」と思うだけでなく、他の臨床症状の確認を行った上で、DVTの可能性を考えるようにしていきたいですね。
4.DVTを評価する術は?
その他の評価として、以下の評価スケールが存在します。
いずれも背臥位(仰向け)で出来る評価のため、術後早期でも評価可能です。
また、リハビリ中でも流れの中でチェックすることも可能であり、スクリーニングとしても使用できます。
ただ、問題として偽陽性が多く特異性は低いとの報告も挙がっています。
以下の評価で怪しいと思った際は、NsやDrに報告し下肢静脈エコーなど追加評価を依頼していく事が重要になると思います。
●Homans徴候
評価方法:背臥位の状態で他動的に足関節を背屈させる
効果判定:背屈運動に伴って腓腹部に痛みを訴える
※下腿三頭筋の伸長痛とは異なり、強い痛みを引き起こす場合陽性と判断する
●Lowenberg徴候
評価方法:背臥位の状態で腓腹部を把握(圧迫する)する
効果判定:腓腹部を把持した際に痛みが生じる場合は陽性と判断する
5.人工膝関節術後のDVT予防について
DVT 予防において、理学的予防法と薬物予防法の大きく2つに分けられいます。
DVT 発生要因である静脈還流の停滞に対しては、リハビリによる予防法の対象となります。
TKA 後のDVT発生に対するリハビリよる予防法において、積極的下肢運動と早期離床・早期歩行、弾性ストッキングの装着、フットポンプ(間欠的空気圧迫法)が代表的となります。
早期離床・早期歩行は、下肢の筋ポンプ機能を発揮させるとともに、足底静脈叢に貯留した血液を押し上げ、静脈血流増加作用によりDVTを予防します。
また、弾性ストッキングの装着は、DVT 発生の高リスクであるTKA後において、単独での予防効果は高くありませんが、フットポンプ(間欠的空気圧迫法)と併用することで薬物予防法と同等の評価で推奨されているようです。
DVT予防として、早期離床・早期歩行はコストが低く、合併症リスクが小さいため推奨されています。
つまり術後早期のDVT予防の観点からでもリハビリの重要性は非常に高い事が言えますね。
6.まとめ
今回は、TKA・UKA術後のDVT(深部静脈血栓症)のリスクとその影響についてまとめていきました。
DVTと言えば、術後のフットポンプ(間欠的空気圧迫法)だけでどうにかなるもので早く離床してしまえばその後は問題ないと思ってしまう事もしばしばあります。
しかし、DVTを引き起こしてしまった場合を真摯に考えてみれば、もっと理学療法士としてセラピストとして対策出来る事があることを再認識させられます。
術後リハビリ指示が出れば、リハビリだけを行っていけばいいわけではなく、その背景にあるリスク面も考慮したうえで最適な理学療法やADL指導が行えるようになりたいですね。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。
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