TKAを行う場合、膝関節を構成する大腿骨と脛骨の骨切りを行い、人工物を挿入し関節そのものを入れ替えます。
この作業を行うための第一のステップに「皮膚の切開」があります。
単純に膝の前面を切開しているように思えますが、この「皮切」にも実はいくつかの種類があります。
今回は、このTKA施行時の皮切について基本的な部分を学んでいきましょう!
1.TKA施行時の皮切について
TKA施行時に行われる基本的な皮切には5つの種類があります。
【皮切のパターン】
①Anterior straight longitudinal incision
②Medial curved incision
③Medial gentle curved incision
④Lateral curved incision
⑤Anterior lateral straight longitudinal incision
以下にそれぞれの説明をまとめていきます。
①Anterior straight longitudinal incision
Anterior straight longitudinal incisionは、膝の中央を真っすぐに皮切する方法になります。
【意味】
Anterior⇒前方
straight⇒まっすぐ
longitudinal⇒縦断的
incision⇒切開
本皮切は、膝外側の皮弁が小さく血行を阻害しにくいという利点があります。
また、展開が良く上下に広げることも容易で、極度の肥満症例にも応用できるという利点もあります。本皮切は、膝関節の内側アプローチだけでなく、外側アプローチでの進入にも適応があります。
しかしその反面、皮切がLanger’s lineと直行することから瘢痕を生じやすく、瘢痕形成に伴う屈曲制限や、ひざまずいたときに疼痛を訴えることがデメリットとして挙げられます。
【Anterior straight longitudinal incisionのメリットのまとめ】
●膝外側の皮弁が小さく血行を阻害しにくい
●手術の際に展開が良く術野の確保が容易
●肥満症例に対する適応もあり、適応の幅が広い
●膝関節の進入路の適応も広い(内側・外側どちらもに適応がある)
【Anterior straight longitudinal incisionのデメリットのまとめ】
●Langer’s lineと直行することから瘢痕を生じやすくなる
●瘢痕形成に伴う屈曲制限のリスクがある
●床上動作の際に膝を着くと痛みが出現することがある
※Langer’s Lineについて
Langer’s lineの線に平行に作られた切開は、それらに対して直角または斜めの角度で作られた切開よりも、ギャップが少なく、より細かい瘢痕で治癒する。
線に対して斜めの角度で行われた切開は曲線になりますが、張力の線に対して直角に行われた切開は広くギャップがあり、並置のためにより多くの縫合が必要となる。
②Medial curved incision
Medial curved incisionは、皮切を内側にカーブさせる方法です。
【意味】
Medial⇒内側
curved⇒曲がった・弯曲した
incision⇒切開
本皮切では、内側にカーブさせることでLanger’s lineと平行に近くなるため、膝関節前面の瘢痕と皮膚の緊張を避けることが出来ます。
しかし、外側に大きな弁状部ができ、膝関節の前面の皮膚は主に内側からの穿通枝により栄養されているので、皮膚の血行の問題では不利となります。
伏在神経膝蓋下枝の損傷により外側皮弁、特に膝蓋骨周囲の知覚異常を生じることがあります。
【Medial curved incisionのメリットのまとめ】
●Langer’s lineと平行に近くなるため、膝関節前面の瘢痕が生じにくくなる
●Langer’s lineと平行に近くなるため、皮膚の緊張を避けることが可能になる
●床上動作にて膝を床につく際も直接当たることがないため、皮切が問題で生じる痛みは軽減する
【Medial curved incisionのデメリットのまとめ】
●外側に大きな弁状部ができるため、皮膚の血行の問題では不利となる
●伏在神経膝蓋下枝の損傷により膝蓋骨周囲の知覚異常を生じることがある
③Medial gentle curved incision
Medial gentle curved incisionは、先ほど説明したMedial curved incisionの皮切のカーブが少し緩いバージョンになります。
【意味】
Medial⇒内側
gentle⇒優しい
curved⇒曲がった
incision⇒切開
本皮切のメリット・デメリットはMedial curved incisionとほとんど同様になります。
ただし、皮切の強いカーブを避けることにより創縁のトラブルを減らすことが出来ます。
また、外側の弁状部は少し小さくなり、膝関節前面の皮膚の血行障害も減らすことが出来ます。
日本人では術後に床上での生活を送ることが大半になるため、手術瘢痕の刺激を避ける本皮切が一般的になります。
【Medial gentle curved incisionのメリットのまとめ】
●Langer’s lineと平行に近くなるため、膝関節前面の瘢痕が生じにくくなる
●Langer’s lineと平行に近くなるため、皮膚の緊張を避けることが可能になる
●床上動作にて膝を床につく際も直接当たることがないため、皮切が問題で生じる痛みは軽減する
※Medial curved incisionとメリットは同じになります
【Medial gentle curved incisionのデメリットのまとめ】
●外側に弁状部ができるため、皮膚の血行の問題では不利となるが、Medial curved incisionよりはリスクが低くなる
●伏在神経膝蓋下枝の損傷により膝蓋骨周囲の知覚異常を生じることがある
④Lateral curved incision
Lateral curved incisionは、膝の外側の皮切になります。
【意味】
Lateral⇒外側
curved⇒曲がった
incision⇒切開
Medial curved incisionと同様にLanger’s lineと平行に近くなるため、術後の瘢痕による皮膚の緊張を避けることが出来ます。
外側の皮切であるため、皮膚の血行障害への懸念はあまりありません。
しかしどの皮切でもカーブは緩く描くべきで、強いカーブは創縁のトラブルに繋がりかねないため避けるべきです。
【Lateral curved incisionのメリットのまとめ】
●Langer’s lineと平行に近くなるため、術後の瘢痕による皮膚の緊張を避けることが出来る
●皮膚の血行障害への懸念は少ない
【Lateral curved incisionのデメリットのまとめ】
●皮切のカーブが強くなる場合、創縁のトラブルに繋がりかねないため注意が必要
⑤Anterior lateral straight longitudinal incision
Anterior lateral straight longitudinal incisionは、Anterior straight longitudinal incisionより若干外側にずらした皮切パターンになります。
【意味】
Anterior⇒前方
lateral⇒外側
straight⇒真っすぐ
longitudinal⇒縦断的
incision⇒切開
本皮切は基本的な部分は、Anterior straight longitudinal incisionと同じになります。
内側アプローチと同様に手術瘢痕部の刺激を避けるために皮切をやや外側にずらしています。
本皮切では、外反膝に対する外側アプローチを行う場合にも適応となります。
【Anterior lateral straight longitudinal incisionのメリットのまとめ】
●膝外側の皮弁が小さく血行を阻害しにくい
●手術の際に展開が良く術野の確保が容易
●肥満症例に対する適応もあり、適応の幅が広い
●膝関節の進入路の適応も広い(内側・外側どちらもに適応がある)
●Anterior straight longitudinal incisionよりも外側よりの皮切となるため、床上動作時の膝への刺激が軽減する
【Anterior lateral straight longitudinal incisionのデメリットのまとめ】
●Langer’s lineと直行することから瘢痕を生じやすくなる
●瘢痕形成に伴う屈曲制限のリスクがある
2.まとめ
今回は、TKA施行時の皮切のパターンについてまとめていきました。
それぞれの皮切でメリット・デメリットがありますが、皮切などを含めた術中のことなんかは、基本的には執刀医が決めることであり術後のリハビリを担当するセラピストがどうこう言える問題ではありません。
何が大事なのかというのは、それぞれの皮切ごとのメリット・デメリットを理解して術後にセラピスト自身がどの皮切で手術が施工されているのかがわかるよういなることであると思います。
皮切のことなんかは術後あまり気にすることがないように思います。
しかし、万が一術後の異常が起こった際に「皮切が影響する因子」を知っているか知らないかで”対応策の幅”が変わってくると思います。
そういった点では、今回紹介したTKA施行時の皮切の理解は術後リハビリを担当するセラピストにも必要な知識ではないかと思います。
それでは本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!
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