どうも。
管理人のKnee-studyです。
今回は前回記事の続きで、「下行性疼痛抑制系」について深く掘り下げていきます。
前回記事では、「変形性膝関節症の疼痛は下行性疼痛抑制系が関与する」・「中枢性感作は下行性疼痛抑制系の破綻が影響して生じる」などの説明を行ってきました。
今回は、その下行性疼痛抑制系とは何なのか?について少し掘り下げて考えていきたいと思います。
それではよろしくお願いいたします。
1.下行性疼痛抑制系とは何なのか?
人間や動物の脳には痛みをコントロールするメカニズムが存在していることが知られています。
「運動競技中にケガをしても、通常であれば我慢できない痛みでも、損傷を受けた直後は比較的痛みを感じずにそのまま競技を続行できてしまう」という現象は多くの方が経験したことあるのではないでしょうか?
この現象も「下行性疼痛抑制系」の働きによるものであるとされています。
脊髄レベルでの侵害感覚情報の伝達の調整に関わる下行性疼痛抑制系は、中脳中心灰白質(peri-aqueductal gray:PAG)、延髄吻側腹内側部(rostral ven-tromedical medulla:RVM)および後外側橋中脳被蓋(dor-solateral ponto-mesencephalic tegmentum:DLPT)のニューロンが重要な役割を担っている。
少し細かく説明すると、
生体には痛みを感じると、脳幹部から神経線維を伝って脊髄内を下降し、過剰な痛みの伝達を抑えるシステムがあるということです。
この神経線維にはセロトニン神経とノルアドレナリン神経があり、それぞれが神経伝達物質を放出し、痛みで興奮している神経の後角にある受容体でそれらをキャッチし、痛みに抑制をかけます。
一般的にこの経路で過剰な痛みを和らげる作用があるのですが、セロトニン、ノルアドレナリンがあまり分泌されない人は、この作用がうまく働かず、痛みを過剰に感じやすく、また痛みも長引くということになります。
慢性的に痛いとか、痛がりの人の中にはこの機能がうまく働いていない可能性が考えられます。
2.下行性疼痛抑制系と中枢性感作の関係性
この内容に関しては以前の記事で説明しました。
以前の記事を引用します。
中枢性感作が引き起こされると、本来備わっているはずの中枢からの疼痛抑制機構(下行性疼痛抑制系)の機能低下を引き起こすとされています。
その事により、痛覚過敏やアロデニアの誘発を引き起こしたり、うつ症状や睡眠障害などが出現すると報告されています。
前回の記事から引用
変形性膝関節症やTKA術後の長引く痛みに関して中枢性感作の問題が指摘されている今回は、中枢性感作についてまとめていきました。以前は中枢性感作に関しては線維筋痛症患者に対するものである認識が強かったですが、近年では変形性関節症や腰痛症患者にも散見されるとの報告が挙がっています。それだけ中枢性感作についての関心は高まってきているといっても過言ではありません。これまでに行ってきた機能改善に重きを置いた理学療法から、心理・社会的要因までも含めた包括的な理学療法が期待されているが故の流れ(時代の流れ)であると思います。
下行性疼痛抑制系は、この神経線維にはセロトニン神経とノルアドレナリン神経により痛みに抑制をかけます。
この機能が低下し、セロトニン・ノルアドレナリンの働きが低下することで痛みを引き起こします。
このような痛みにサインバルタは、中枢神経系のセロトニン、ノルアドレナリン再取り込みを阻害し、下行性疼痛抑制系を賦活することによって鎮痛効果を発揮しているということですね。
このことからサインバルタは中枢性感作にも効果があると解釈されているわけですね。
ちょっと混乱してきたので整理します
前回の記事と合わせて、今回のキーワードとしては以下の通りです。
●中枢性感作
●下行性疼痛抑制系
●サインバルタ
・中枢性感作により慢性的な疼痛が出現するといわれている
・この背景に、下行性疼痛抑制系の機能低下が隠れている
・下行性疼痛抑制系の機能低下=セロトニンやノルアドレナリンといった疼痛抑制に働く神経伝達物質が放出されてもすぐに取り込まれてしまい、疼痛抑制に関与しなくなる
・なので、サインバルタなどのSNIRを服用することで、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、一旦放出された神経伝達物質が疼痛抑制に関与しやすくなる環境を作っているということ
・このようにサインバルタの効果により下行性疼痛抑制系の機能低下が改善されることで、痛み刺激の増幅がなくなり、疼痛の緩和が得られる
このような機序で、中枢性感作による疼痛に対してサインバルタが効果的に働くということになります。
3.まとめ
今回は前回の記事と合わせて二部制のような形で記事を作っていきました。
下行性疼痛抑制系は、疼痛をコントロールする上で非常に重要な役割を果たしています。
この下行性疼痛抑制系の機能が破綻することで、疼痛の増悪を招き、本来感じない痛みも感じるようになります。
こうなると、痛みの改善は容易ではなくなり、慢性疼痛へと移行する可能性が高くなります。
そうならないためにも、下行性疼痛抑制系の改善に関与する薬剤としてサインバルタ(SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬))が存在します。
「痛み」というキーワードを聞くと単一的な印象(痛いのか・痛くないのか)を持ちますが、実際はもっと奥深いもので、痛みの問題というのはしっかり考えていく必要のある分野になると思われます。
短絡的に「精神的な問題」とか「気のせい」などと捉えるのではなく、「機能的に問題がなくても痛みは形成される可能性がある」という認識をもって臨床に取り組んでいきたいと思います。
それでは、本日はこの辺で。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!
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