TKAでは、膝関節の骨切りを行い人工物であるインプラントを挿入する、つまり関節そのものを入れ替える手術となります。
膝関節に至るまでには皮切から関節包の切開までを必要とします。
皮切の方法に関してもいくつか進入方法が提言されていますが、
我々セラピストが術後に知りたい部分としては、皮切から先の軟部組織を含めた膝関節内への進入方法ではないかと思います。
今回は、そんな膝関節内への進入方法を簡単にまとめていきます。
1.膝関節内の進入法の違いがTKA術後のリハビリとどう関わっているのか?
膝関節内に進入するまでには皮膚や皮下組織、筋などの軟部組織が存在します。
それらの組織を切除ないし割いて膝関節まで到達するわけなので、術後はどの部分にダメージが残っているのか?を予測するためにこの進入法の理解は重要になってきます。
基本的には以下の項目が進入法の違いによって差が出るポイントになります。
●内側広筋のダメージの程度の差による術後の大腿四頭筋の早期回復
↳進入法で内側広筋の切離の有無があり、切離がある場合は術後の大腿四頭筋の機能回復に時間を要す可能性がある
●膝蓋骨への血行の温存の程度および安定性の程度
↳進入路によって、膝蓋骨に行く重要な血管を切除することもあり、内側広筋の機能障害の程度によっては膝蓋骨の安定性に差が出る事がある(膝蓋骨の外側脱臼のリスク)
●進入法の違いによる術中の出血量の程度
↳上述したように、進入路によっては膝関節に関与する血管の切除を行うため、出血量も変わってくる
2.膝関節内への進入方法について
ここからは、実際の膝関節内への進入方法についてです。
膝関節内進入法は、「内側からの進入法」と「外側からの進入法」の2つに大別されます。
その中で、内側からの進入法はさらに5つに分けられます。
①Medial parapatellar approach
②Midline approach
③Subvastus approach
④Midvastus approach
⑤Trivector approach
多くの施設では内側からの進入が主流であると思われます。
※外側からの進入法に関しては今回は割愛させていただきます。
①Medial parapatellar approach
この進入法は、膝関節を大きく展開できることから、最も標準的な進入法とされています。
図:Medial parapatellar approachの進入路
Langenbeckにより最初に提唱されたわけですが、当初は内側広筋筋腹内で切開する方法であり、現在は用いられていません。
Medial parapatellar approachの古典的な方法では、大腿四頭筋腱の内側1/3を切開し、進入していきます。
また、変法として大腿四頭筋腱と内側広筋の間を切離する方法もあります。
手技が簡単であり、術野が広く取れるため標準的な方法とされていましたが、膝蓋骨の血行を阻害する可能性があることから、現在は他のアプローチが推奨されています。
②Midline approach
図:Midline approachの進入路
Midline approachに関しては、Insallによって紹介された方法であり、原法は大腿四頭筋腱の内側1/3切開より始まり膝蓋骨内側1/3を骨膜下に剥離したのち、そのまま遠位では膝蓋腱も内側1/3を縦切するといった流れでした。
このため前方からの進入法と考えられ、そのまま人工膝関節の展開法として適応するのは困難とされていました。
後に変法を提唱し、遠位枝のみを脛骨結節の内側に置く方法で、膝蓋腱の内側で関節切開が行われるためむしろ内側アプローチと考えられ、Medial parapatellar approachと同様に人工膝関節の展開法として利用できるようになっています。
Midline approachでは、膝伸展機構の直線状に走る線維が温存されるため術後の大腿四頭筋の早期回復が期待されます。
③Subvastus approach
Subvastus approachは、southern approachとも呼ばれ、1929年にErkesにより報告されましたが、当時はあまり一般的ではありませんでした。
しかし、1991年にHofmannによってSubvastus approachの意義が再認識され、認知されるようになってきたようです。
図:Subvastus approachの進入路
Subvastus approachは内側広筋への侵襲が最も少ないことから膝伸展機能の温存が可能になること、膝の内側よりの血行を温存できることがメリットに挙げられます。
④Midvastus approach
図:Midvastus approachの進入路
Midvastus approachは、Subvastus approachとMedial parapatellar approachの良ところを折衷した進入法であり、最近は膝蓋骨の安定性から普及しつつあります。
Midvastus approachは、術野の確保と低侵襲というメリットが挙げられます。
このことから膝蓋骨の血行の温存と安定化、大腿四頭筋の早期の機能回復が期待されます。
⑤Trivector approach
Trivector approachはBramlettにより報告された進入法になります。
膝蓋骨に作用する3つのベクトル(外側広筋・中間広筋・内側広筋)の膝蓋骨付着部をすべて温存が可能であることから命名されています。
図:Trivector approachの進入路
Midvastus approachと同様に大腿四頭筋を温存し術後の早期回復を目的とした進入法の一つであり、視野が比較的確保しやすく、膝蓋大腿関節障害も生じにくいといった特徴があります。
Trivector approachでは、大腿四頭筋の術後早期の回復や膝蓋骨の安定性に有利であるとされています。
3.まとめ
今回はTKA施行時の膝関節内への進入法についてそれぞれ簡単に紹介していきました。
前回の「TKA施行時の皮切」に続いて、術後のリハビリに必要な知識として必要な部分をまとめていきました。
TKA術後のリハビリを行うとき、皮膚の切開や膝関節内への進入路などはあまり思考の範囲内にないものかもしれません。
しかし、TKA術後のリスクを考える上では思っているよりも重要な知識であることに、この知識を覚えることで実感すると思います。
ということでTKA術後のリスク管理およびリハビリに必要な知識についてでした!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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